第13話
「我々には調査隊を送る時間的余裕がありません。部長の仰る通り確証はありません。
ですが! 手掛かりがそこしかないのです。北と西は山々に塞がれ南はどこまで続いてるのかすらわからない大森林です。
東にしか生きる術がないのならそこに向かいませんか?
成功を保証できないのは心苦しいのですが共に未来に手を伸ばしませんか?」
「ダメだ。東の草原には調査隊を送るものとする」
「賛成! 賛成!」「1年は引っ込めー」「初心者風情が!!」
もはやここまでか……
「わかり…ました……。
明朝までに東に向かう志願者を募集します。
夜間の見張りなどを考慮すれば最低でも4人、つまり志願者が3人来れば決行します」
「お、おい!」「そんなのアリ?」「どういうこと?」
「勝手な行動は許さないぞ!」
「どう許さないのですか?
あなたはあくまで部活の部長であってここの指揮権を有してるわけではありませんよ?」
「コ、コイツ……」「生意気!!」「なに? アイツ」「ムカつく!!」
パンパンパンパン!
「お前らちょっと落ち着け」
3年の早川先輩が間に入って来た。
「なるべく口出ししないつもりだったんだが、さすがにマズイ状況だからな。
外山(部長)、改めて聞くが、行方不明の木下は生きてると思うか?」
「まだ1日経過してませんし5分5分だと思います」
「捜索隊を夜に出せないのだから実質1日経過したものと考えるべきだろう。
それだとどうなんだ?」
「厳しい…かもしれません」
「ふむ。となると行方不明者を考慮しない場合のおまえの判断は?」
「それでもここに残って調査隊を出します」
「その理由は?」
「えっとあの写真では全員の移動を決断できないこと。
体育館ごとこの地に転移したのだから、ここにいればもしかしたら日本に戻れるかもしれないということ。
それと可能性が低くともここに残って木下を捜索したい、の3点です」
「そうよ! ここにいれば日本に帰れるかも!」「帰れる!!」
「やはり体育館にいるべきだ!!」「そうだ! そうだ!」
ザワついたのを早川先輩は手で制した。
「絡繰、俺もあの写真だけで判断できないししっかり調査すべきだと思うが、それのどこがダメなんだ?」
「丘からの目視で森の出口まで1日と予測しました。調査隊が帰還するのは急いでも3日目の昼だと思います。
恐らく……調査隊不在の間の体育館に残った人達は敵の襲撃に耐えられないでしょう」
「はあ?」「なんだと!」「ふざけんなよ!」「何様のつもりなの!?」
「昨日の襲撃が最後でもしかしたらもう襲われないかもしれないだろう?」
「もちろんその可能性はあります。ですが……」
「なんだ?」
「奴らの武器は量産品です。荷駄隊や輸送隊を襲って得た物なのだとしたらそれを行えるだけの戦力を有していることになります。
自分の予測が外れてるかもしれません。しかし、奴らの拠点を発見できなかった以上実態を知る術はありませんから、最悪を想定して動くべきです」
「……朝に志願者が3人来たら移動する決意は変わらないのか?」
「はい」
「お前ら聞いたな? 後は自分で考えて判断しろ。どんな決め方をしてもいいが選んだのは自分で自己責任だということは肝に銘じて置け。いいな?」
「「「はい!」」」「「「はぁ……」」」
「では外山、次だ」
「つ、次?」
「防衛準備だよ、どうするんだ?」
「あ、はい。体育コートの扉は閉め、2階に続く階段のところで迎え撃ちます。見張りは常に2人で0時までは2時間交代、0時以降は1時間交代で行います」
「階段は4ヵ所あるが全部守るのか?」
「出入口の両サイドにある階段を守れば十分だと思いますが……」
なんでそんな悪い守り方をするんだよ。
「絡繰、何か意見あるのか?」
「はい、出入口正面の体育コートの扉を開けてそこに敵をおびき寄せます。
扉の内側で半円状の陣形を敷き、できる限り複数対1の状況を作って敵を1体ずつ確実に殺します。
見張りに関しては部長案で構いません」
「他に案ある奴いるか? なければ多数決で決めるぞー」
こんな重要なことを多数決なんかで決めるのか……
訓練もしてないのに部隊を2つに分けて運用するなんて無理だろ。
奥の階段から2階の観客席経由で体育コートに侵入されたらどれだけの犠牲者が出るか……
先ほどの一件がある以上俺の案が支持されることはないだろうし。
「では外山案がいいと思う奴は挙手!」
うん、予想通り過半数以上は数えなくてもわかる。
「決まりだな。絡繰もいいな?」
「……はい」
結局俺の見張りは4時~5時で敵襲の時は1年を中心に体育コートを出て左側の階段を守ることになった。右側の階段は2年担当である。
夕食の時に近藤や佐伯が俺に話し掛けようとしてきたが手で制しておいた。
2人がもし体育館に残る決断をした場合は俺と話すことで立場を悪くしてしまう。
そう。
移動の一件で俺は2年から総スカン状態なのだ。
しかも1年の女子からも陰口を言われている。
覚悟はしていたものの気が滅入ってしまう。
そうそう、夕食はもちろん肉多めのカレーライスでとても美味しかった。
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