第9話

 捜索隊は出発から3時間ほどして帰って来た。

 どの顔にも疲れた感じがありありと出ていた。


「昨日体育館の周り半径200メートルを探索したとのことだったので、俺達は200~700メートルのドーナッツ状の範囲を捜索したのだが何も手掛かりはなかった」


 捜索隊を率いた伊藤先輩はそう報告した。

 これは第2陣の捜索隊に指名される前に手を打ったほうがいいな。


「部長。昨日提案した東の丘の探索と、東側の700メートルを超えた範囲の行方不明者の捜索を同時に行いたいのですが」


「そうだな。絡繰が出発したら志願者を募って自分も捜索を行おう」


「絡繰、今から出発すると帰るのは午後になるだろ。昼飯持って行くの忘れるなよ」


「伊藤先輩ありがとうございます」


 現在の時刻は9時半過ぎだ。

 そして昼飯とはクラッカーのことである。カレーは夜だ。



 探索隊のメンバーは昨日のメンツから1人抜けて佐伯が加わった。


「準備はいいか?」


「バッチリ!」「問題ないぞ」


「あ、誰かスマホ持ってないか?」


「私持ってるけど、どうして?」


「丘からの景色を写せば説明し易いし残ってる人達にもわかり易いと思ってな」


「おまえの携帯はどうしたんだ?」


「俺の携帯というか練習道具以外の荷物は部室に置いて来たんだよ。まさかこんな事になるとはな。フーバー」


「は?」


 近藤め、プイベート・ラ〇アンも見てないのか。

 こんな名作見ないなんて人生損してるぞ。



「昨日は雑談禁止にしたが、今日は雑談ありにしよう。時間掛かりそうだからな。

 今回の目的は東の丘に登って丘の向こう側の情報を得ることだ。もちろん写真も撮る。ただ余力がある内に帰還することを最優先としたい。

 何かあるか?

 ……ないようなら出発!!」



「丘の向こうに何があるのかワクワクするね!」


「一応森が続いている前提でいてくれよ。何もなくて丘の上で落ち込まれても困る」


「固いなぁ絡繰は。ここは妄想の翼を羽ばたかせるとこだろう」


 せめて想像の翼にして欲しいが。


「だよね! 私はねーお菓子の国があると思うな!!」


「へ?」


 これまたなんともメルヘンな……


「そんでね! チョコやクッキーやプリンな人達がたくさんいるの!!」


「おまえ……、その国の住人を食べるつもりなのか?」


 メルヘンどころかスプラッターなのかよ!


「あ、ウソウソ! お菓子なのは家とかの建物にするよ!」


 どちらにせよアリ対策をどうしているのか是非とも聞いてみたいものだ。


「そういう系統でいいのなら俺は焼肉帝国だな」


 なぜ帝国にした!!


「えー!! 野菜好きはどうするのよー」


「ならBQ(バーベキュー)帝国でいいか? これなら広範囲をカバーできるし」


「それなら、まぁ……いいかなぁ」


 食い物関連ばっかだな。

 これからずっとカンパンとカレーのコンボが続くとなれば妄想したくもなるか。

 しかもカレーには早めにダメになりそうな肉を使い切る目的で多めに入れてるからな。


「真面目な話、何かあると思うか?」


「あって欲しい。街か村、最悪廃村とか道路でもいい」


 俺は切実にそう答えた。

 あまりそんな雰囲気ではないが、生きるか死ぬかの瀬戸際ぐらいに切迫してると言ってもいい。


「人か。なぁ、結局ここは俺が言った通り異世界ってことでいいんだよな?」


「そうなるのかなぁ」


「宇宙の彼方の地球型惑星という可能性もわずか……」


「ねーよ」「ないわ」


 こういう時だけ息合わせやがって……



「んで異世界だとするとお決まりの中世な時代でいいのか?」


「昨日のゴブリンの装備だと近代現代は絶対にないしな」


「魔法とかはあるかなぁ。魔法少女☆ミカちゃん♪ ビシッ!」


「おまえ……、その歳で魔法少女モノとか見てるのかよ……」


 何やら変なポーズを決めてる佐伯に俺は呆れた。


「こ、子供の頃の素敵な思い出よ! 高校の時なんて日曜朝から部活があるから録画するの大変だったんだからね!!」


「でも大学生からはリアルタイムで見れるだろ?」


「そうなのよ! もう毎週楽しみで……ってちっがぁぁぁぁう!! 子供の時の話だって言ってるでしょ!!」


 見事なノリツッコミだ。


「魔法があるとしても魔法少女系ではないだろうな」


「近藤はゲーム系と予想しているのか?」


「おそらくな。レベルやステータスもあるかもしれんぞ」


「(小声で)ステータス……」


「お! おまえ今ステータスが表示されるか試したろ?」


「ね、念の為な。試すだけならタダだし」


「ステータス表示はなかったろ? 俺も昨日転移した直後に試したんだがダメだった」


 近藤のくせに行動が素早いな。


「表示されないってことはレベルもステータスもないんじゃね?」


「いや、特殊な魔道具や鑑定魔法でしかわからないとか色々あるんだよ」


「へー。俺も異世界モノはそこそこ読むけど、近藤の方が詳しいみたいだな。そんなに好きなのか?」


「アタリ前田のクラッカーよ!!」


 古過ぎだろ!

 俺は懐かしの昭和特番で知ってるのだけどさ。


「でもでもぉ、異世界転生モノは現実逃避したい人がハマるってテレビで批判されてたよ?」


「それを言うならフィクション系の創作物全てに当てはまるだろ?」

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