第8話

「前川さん以外の職員の方の意見はどうなんですか?」


「私は運動とかダメなので戦うのは無理ですけど準備とかで手伝えることがあるなら喜んでやります」


 前川さんよりちょい若めの女性の職員さんだ。


「あの! 私若い頃に薙刀やってたんで男性の方ほどではありませんが少しは戦えると思います」


 薙刀か……

 大人用の鉄棒が長さ的に丁度いいかもしれない。

 職員の中で一番若そうな人だ。

 指導とか可能なら戦力アップに繋がるかも……


「私は前川さんに賛成する。武器は持つべきではないし暴力反対だ。自分の子供にもそう教えて来たのだからこの信念は貫くよ」


 えぇー、1番賛同を見込んでいた男性職員の高山さんがまさかの前川派だよ。

 なんだろう?

 理不尽な暴力に対しての抵抗にすら拒否反応を示すだなんて無抵抗主義者とかだろうか?

 あるいはここが日本と変わらない感覚で過ごせたり、己の考えで自由に身勝手に行動しても誰かが守ってくれると気楽に考えているとか……


「高山さん……」「前川さん……」


 うん。職員同士で説得させるのは諦めよう。


「お2人ともこのような状況です。食事や飲み水など物資に関することは共有して、それ以外はお互いに不干渉でいきませんか?

 お2人はそのまま奥の職員用の休憩室を使ってもらって、女性2人はこちらに移動して頂くのはどうでしょう?」


「私達は守ってもらえないということでしょうか?」


 はあ? コイツ何言ってるの?


「我々はお2人の保護者ではありませんから守らなきゃいけない義務なんて最初からありませんよ。

 守ってもらいたいということは相手が襲ってくるだけの殺すしかない魔物だということを理解されているのでは?」


「いえ、確認しただけです。私達は自分の考えを曲げるつもりはありません」


「これで決まりですね。部長次を」


「あ、ああ。それでは防衛組と捜索隊に分けるぞ」


「捜索隊に参加させてください!!」


 1人の女子が手を挙げて志願して来た。

 行方不明になった木下先輩を必死に探してと叫んでいた人だな。


「わかった。伊藤、何人か選んで周辺を捜索してくれないか?」


「了解した」


 伊藤先輩はもう1人の2年男子と志願した人含む2年女子2人、1年からは江藤ルリの彼氏のトシキを連れて出発した。




 防衛組はまず見張りのローテーションを組み、ゴミ箱から空き缶を取り出して警報器を作った。ロープを揺らすと音が鳴るアレである。

 そして男連中で交代して大きな穴を掘り、ゴブリンの死体を埋めた。

 ゴブリンが所持していた武器は全て回収したが、包丁より少し大きい刃物が8本とショートソードが2本だ。

 全て刃こぼれしていたり錆びたりしていてまともなものが1本もなく、8本の刃物の内の3本が折れていた。


 ショートソードの1本は捜索隊の伊藤先輩が持ち出している。

 残された1本と刃物をマジマジと観察してみる。

 人が作ったようにも思えるが、2本のショートソードと8本の刃物はそれぞれ完全に同一ではないものの同じ製法で量産された物なのは間違いない。

 人間から奪った物を利用しているのならもっと多種多様な武器になるはずだ。

 あるいは輸送隊なんかを襲えば大量生産品を複数手に入れられるか?

 もしも……ゴブリン自身で製造しているとしたらかなり大きな集団を形成していることになる。 ここから人を連れ去る以上はゴブリンの拠点はそれほど遠くではないだろう。

 数がいるのなら拠点の周囲を警戒しているかもしれない。捜索隊がその警戒網に引っ掛かったら……

 冷静に引き際を見極めてくれるといいが、捜索隊には取り乱していた女子も加わっている。

 救出を焦ると危ないかもしれない。


 いや、待て。落ち着け。

 ゴブリン共に鍛冶能力があるのなら刃こぼれしたり錆びたりしてる武器を使い続けてるのもおかしい。

 やはり人の手によるものと考えるのが妥当か。

 つまりゴブリン共の行動範囲内に村か街、あるいは輸送隊が通る道があるということになる……はずなのだが……



「ね、ねぇ、ちょっといい?」


「佐伯か。どうした?」


「昨日の夜に言ってた東の丘の探索って今日行くの?」


「何も起こらなければ行くことになると思う。捜索隊が帰ってからどうするか決める感じかな」


 俺自身は絶対行くつもりではいるけどな。

 昨日も少し考えたように早期に人里目指して移動すべきだ。

 敵(魔物)が襲ってくる。

 犠牲者が出た。

 考え方の違いで離脱者が出た。

 このまま森の中の体育館に引き籠ってもジリ貧になるだけだ。

 ただ……、体育館ごと転移して来た以上このまま体育館ごと再び転移して日本に戻れるという可能性もあるかもしれない。

 少なくともそのように考える人はそこそこいるだろう。

 その時が来たら賛同者を募って部活集団から離れて独自に人里を目指すのか、あるいは説得して全員で移動すべきか決断しなくてはならない。

 今ちょっと某国営放送のその時〇史が動いたみたいな感じだったな。


「探索に私も付いて行ったらダメかな?」


「全然構わないけど、危ないかもしれないぞ」


「外を見てみたいと思ったんだ。このまま体育館の中で何もわからずに死ぬのは嫌だし。自分で決めたことだから例え危険でも自己責任だよ」


「わかった」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る