第7話

「やったね!」


「どちらかと言えば賭けより出場者の悲喜こもごもな人間模様を見るのが好きだからこれは嬉しいわ」


「次に向けての情報収集も万全に行うことができるな」


「前回までは全員スキップか再生かで決取っていたからね」


「いつだったかな? 1人だけスキップして1日近く孤独に待っていたからなぁ」


「そんなこともあったね!!」


『注意点がございます。1度ブースを出てしまうと次のラウンド間までモニター視聴ができなくなります。これはシステムに時空魔法を組み入れた弊害でして、今後改善されるよう努力致しますが今回は調整が間に合いませんでした』


「それでも良い仕事したよ」


「褒めてあげるわ」


『ありがとうございます。それではブースにお入りください』









「恵美子を探してぇ! 探してよぉ、お願い、恵美子ぉ、恵美子ぉ……」


 あれは2年の……誰だったかな?

 飲み会で何度か見かけたぐらいで練習では初めて見る……か?


「絡繰君……」


「佐伯はケガとか大丈夫だったか?」


「うん、私は平気だったけど……」


「いなくなった人がいるのか?」


「2年の木下先輩。直前にトイレに行ったみたいなんだけど」


「絡繰! こっち来てくれ」


 部長が呼んでる。


「ちょっと行ってくる」


「うん……」


 佐伯にいつもの元気がないな。

 当然か。死んだ2人とは俺以上に付き合いがあった訳だし。

 ちょっと気持ちを抑えないと皆から反感を買ってしまうな。気を付けないと。



「部長、なんでしょうか?」


「ああ。聞いたと思うが木下が行方不明になってな。捜索隊を出そうと思うのだが……」


 部長もかなり落ち込んでいるな。

 こういう時こそリーダーシップを発揮してもらいたいのだが。


「捜索隊を出すにしても夜明けにならないと、それに捜索隊と居残る組双方に武器を用意しないと危なくないですか?」


 今は深夜の3時過ぎだからあと1時間ちょっとで夜が明けるはず……


「武器って何だよ! どこにあるんだよ!! そのおまえが持ってる鉄の棒のことか?」


「部長?」


「なんでこうなるんだよ。さっきまでここで皆で寝てたんだぞ。くそっ……」


 う~~ん……

 早くも限界なのか?


「とりあえず武器になりそうな物を探すことも含めて館内を捜索しませんか? もちろん入り口の防備は固めないといけませんけど」


「そうだな。そうするか」


 まさか外敵がいるとは思わなかったからなぁ。

 異世界かもって時点で想定すべきだったのだ。



 別室だった体育館職員にも事情を話し館内の捜索を手伝ってもらったが見つからなかった。

 武器も野球の金属バットが4本あっただけだ。

 仕方なくさらに倉庫にある子供用の鉄棒を解体しようとしたところ、女性の職員から待ったが掛かった。


「戦うと決める前に話し合いを試みるべきではありませんか?」


「ちょっと前川さん、こんな時に……」


「言葉の通じないあのゴブリン相手に話し合いですか?」


 部長が怒鳴りたいのを我慢する感じで応じる。


「言葉が通じないというのも話せるのか試した訳ではないでしょう?」


「それはそうですが……」


 周囲の雰囲気がピリピリし出す中、部長が何とかしろと目で訴えて来る。

 そんなこと期待されてもなぁ。

 なんとか有効そうな方向に持っていくしかないかなぁ。


「試してみる価値はあるかもしれません」


「か、絡繰!?」


 アンタが目で訴えかけて来たのになんで驚いてるのよ。


「話が通じる個体がいるなら殺さずに捕えて情報を引き出すということも可能です。捕まった女子の手掛かりも得られるかもしれません」


「う~~む、確かに情報は得たいがなぁ……」


「さっき戦ってみた感じでは奴らは小柄ですしそれほど強くありません。戦う覚悟さえあるなら女子でも殺せるでしょう。

 仮に捕獲作戦を行って失敗したとしても戦う準備さえしっかりしてれば犠牲を出さずに勝てると思います」


「そうだな。前川さんもそんな感じの提案をされたということでよろしいですよね?」


 これはそういうことにしておけという部長のお願いな訳だが果たして……


「いいえ違います。戦うなんてしないで武器を持たずに話し合いを試みるべきです」


 あーあ、こちらの苦労が水の泡だよ。


「戦う為の準備すらしないのですか?」


「もちろんです。誠意をもってきちんと話し掛ければ相手もきっと応じてくれます」


「さっき殺された2人の女子の遺体を見られたほうがいいのでは?」


「いい歳してお花畑なことを言ってないで現実を見ろ!!」


 周囲の雰囲気は先ほどの返答から剣呑さを増しており、ついにはヤジまで飛んでくるようになった。

 2人の遺体は奥の個室に運ばれブルーシートが掛けられている。


「なんと言われましても戦いには反対です。野蛮人になるなんて御免です。戦う為の準備とやらにも参加するつもりもありません」


 再び部長が何とかしろと目で促してくる。

 切り捨てるという発案をしたくなくて部長として追認したいだけなのが見え見えだ。

 なんで俺ばかりが損な役回りを……

 他の職員から前川さんを説得する方向になんとか持っていけないだろうか?


「前川さん以外の職員の方の意見はどうなんですか?」

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