第2話

 結局この場にいる部員21名、職員4名の計25人が見知らぬ土地に転移したということになる。

 漂流体育館と言ったところか。


 部員は男11人女10人で細かく言うと、3年男1人・2年男3人女4人・1年男7人女6人の構成だ。

 4年生はもう最後の学生生活を謳歌してる最中なので練習になんか来ないし、3年生は秋季戦に出場する人以外は夏合宿が実質的な練習納めになり就活をスタートさせる。

 今日来ている3年生の早川先輩は実家の旅館を継ぐことが決まっていて就活とは無縁の人だ。


 この体育館の職員4人は男1人女3人でいずれも中年の方だ。

 地方公務員ということなのだろうか?

 率先して皆をまとめようとする意志は感じられない。

 4人揃ってオロオロしているばかりだ。


「職員の方にお聞きしたいのですが、この体育館に水はどの程度ありますか?」


 外山部長の問いに職員の中年男性が前に出て答える。


「屋上にある貯水槽にあるのを使い切れば後はそうですね……確か災害時の備蓄物資の中にペットボトルの飲料水が何ケースかあったかと。それと自販機もカギで開けられますので。あっ、あと最悪プールの水は飲もうと思えば飲めます。気は進まないでしょうが」


「食料のほうはどうですか?」


「それも災害用の非常食がそれなりに備蓄してあります。担当ではありませんので正確な数は把握していませんが、この人数で食べても1月やそこらでなくなる量ではないのは確かだと思います」


「ん~、備蓄物資の確認が先かな。その前に、皆。水の節約に協力して欲しい。今から備蓄物資の中から飲料水を持ってくるからそれまで水道は使わないでくれ。館内のトイレも使用禁止だ。トイレに行きたい人は外の森の中でしてくれ」


「えー」「そんなぁ」「やだぁ」「表でなんて無理ぃ」


 案の定女性陣から不満の声が上がる。

 ただ水の大事さは理解しているのか不満の声も条件反射的な感じのようだ。もちろん不満は不満なんだろうが。


「あ、あの、我々は非常勤職員でして備蓄物資を皆様に提供する権限がないのですが……」


 4人の職員は皆バイトなのか。


「ふむ……。物資を保管している倉庫のカギの場所はわかりますか?」


「はい。館長の机の引き出しに……」


「では私が勝手にカギを持ち出して倉庫を開け、私が勝手に皆に物資を配ります。全ての責任は私にあります、これでいいですか?」


「まぁそれでしたら……」


「高山さん! アンタ子供に責任被せるなんて」


「しかしこれが災害と認定されなければ備蓄の横領?横流し?で刑事訴訟ものなんだぞ」


「それでも大人の責任として……」


「まぁまぁ。成人しているという意味では私も大人ですし、今はこのような些事で揉めたくありません。私の責任で一向に構いませんから先に進みましょう」


 部長は職員の人達と体育コートを出て行った。

 普段は副部長に任せ切りの感じな外山部長だが中々のリーダーシップを発揮している。

 昼行灯ひるあんどんも闇夜においてはかがり火になるというのは誰の言葉だったか。



「トシキィ。今日ファミレスで晩御飯食べるって話はどうなったのぉ?」


「ファミレスどころか部屋に帰れるかも怪しいぞ」


「ええええ。あたしこんなとこでエチはできないよぉ」


「夜に表でヤろうぜ」


「外でなんてやだぁぁぁぁ」


 俺の斜め後ろから聞こえてくる会話なんだが、リア充共めぇぇぇぇ。

 バカっぽいギャル女は1年の江藤ルリ。そのように演じてるだけという噂があるから注意が必要だ。



「ねぇ、私トイレに行きたくなっちゃったんだけど」


 なぜか佐伯は俺に言ってくる。

 そんなこと言われてどうしろと……


「外の森でするようにだってさ」


「付いて来てくれないの?」


「他の女子に言ってくれ。あ、いや、佐伯がどうしても俺に見られながらしたいのであればじっくり鑑賞しても……」


「バカ! もうバカッ!」


 佐伯は怒って女子の方に行ってしまった。




 台車に段ボールを積んで戻って来た部長は各自にペットボトル(500ml)を配り、水道の水はそこに補充して下水に流さないように注意した。


「さて、これからどうするべきだろう。何か意見はないか? え~と絡繰!」


 な、なぜ俺!?


「は、はい!」


 すかさず立ち上がる。


「どうした。遠慮せずに何か言ってみろ」


 お気楽サークルではないので先輩の指令は絶対だ。

 く、くそう。

 ざまぁみたいな表情でニヤニヤしている佐伯がムカつく。


「えっと直ちに取り掛かるべきことはトイレの設営。備蓄にテントか何かあるようならそれを使って、次に夜に備えての光源の確保。これも備蓄に発動機か蓄電池または乾電池がないか確認する。最後に……陽が落ちる前に周囲の探索をする……でしょうか?」


 他に何かあるかな……


「うむ。では1年を数名連れて発案者のお前が指揮して体育館の周囲を探索しろ。他の者はトイレの設置と備蓄物資の確認、ついでに夕食の準備もしよう」


 自分で言い出したことだから断れない……


「近藤来い!」


「おう!」


 他に1年男子3人に声を掛けた。

 そして出入口とは反対の体育コートの横にある倉庫に向かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る