剣を手に取り抗う者は
常盤今
第1話
「おいどこだよ! ここは」
「林? いや森の中だぞ!」
「ビルとか何も見えないわ!」
「音もなくなった。風による木々のざわめきだけだ」
「月……? あれが月か??」
「何なの、あの色……、それに月が2個??」
俺の名は
大型台風による激しい風雨の中所属するバドミントン部の練習をしに区の体育館に来ていたのだが、経験したことのない激しい揺れと吐き気・目眩に襲われ気付いたら体育館は辺り一面森に囲まれていた。
夕焼けの空は雲一つなく、紫と赤の2つの月が空にある。
あんなに激しく降っていた雨もすっかり止んでいた。というより、近くの木々を見るに降っていた形跡すらない。
時折女子の悲鳴や嗚咽が聞こえる混乱の中で逆に俺は冷静さを取り戻しつつあった。
これは創作物で流行りの異世界転移なんじゃないか?
さもなくばタイムスリップか。
時間移動だとしたら未来だと人工物が痕跡もなく消えているというのは不自然だから過去ということになるのか。
例え過去に時間移動したとしてもあのような月は日本の歴史にも世界史にも出てこない。
となるとやはり異世界……ということになるのか?
俺はいわゆる隠れオタクという奴だ。
正確にはオタク趣味を周囲に隠しているということになる。
世間的には昔と違ってそういった二次元系の趣味は認められるようになったと言われているが、同系統の趣味グループに属さない限りはまだまだ隠す傾向にあると思う。
それはともかく!
オタク趣味な俺は異世界も当然大好物な訳だが……
実際自分の身に起こってみると何が何やら……
日本には、いや現代には帰れないのかとか家族にはもう会えないのだろうか、こんなとこで生活できるのか……などの不安で一杯になっている。
よく異世界モノで陰キャなオタクが異世界では急に張り切り出すとかあるがあれはウソだな。
「絡繰君ここどこだろう?」
近くにいた佐伯ミカが話しかけてきた。
佐伯は俺と同学年でスラっとした感じのスポーツ少女だ。
髪はショートで結構可愛い。
「都内ではなさそうだけど」
「どこかの山奥かな?」
「異世界だよ! 異世界!! あの月見ろよ」
俺と佐伯に割って入って来たのは同じ学年だが1つ年上の近藤辰也だ。
高校まで柔道をしていたガッチリ体型の体育会系だ。
「みんなで夢を見てるとかは?」
集団催眠か。
異世界よりかは現実的な分析だな。
催眠状態から解ければ日常に戻れる訳だが……
「20人以上が同じ夢を見て、その夢の中で互いに話せるなんてあり得るのか?」
「ないかな? 近藤君の言う異世界? とかより可能性あると思うけどぉ」
「いや、これ絶対異世界だよ! 集団の奴は召喚されるかこんな感じで始まるし」
なんで体育会系のおまえがそんなに異世界に喰い付くんだよ!
つか異世界モノ読んでるのかよ……
「だって別の世界とかちょっとねぇ。絡繰君はどっち派なの?」
コイツら意外に余裕あるのな。
あっちからは泣き声だって聞こえるのに。
「俺は超転移派かな。遠い宇宙にある地球型惑星に一瞬でワープしたとか」
どちらに味方しても面倒そうなので適当に第3の意見を言っておく。
「それはない!」「ないわね」
コイツら……
パン! パン! パン! パン!
「ちょっと皆聞いてくれ」
お。部長の外山先輩が指揮り出したな。
「状況は不明だが普通じゃないことだけは確かだ。これからどうするか、この状況にどう対応するかを決めるにしても最初に現状把握をしておきたい。まずは人数を確認したいのでこちらのノートに名前を記入してくれ。すいませんが職員の方もお願いします」
「わかりました」
部員は20人ぐらいいる。普段の練習参加者は10名に満たないこともあるのに今日はやけに出席率がいいな。台風で本来の用事が潰れてこちらに来たとかか? だとしたらこんなことに巻き込まれて不運もいいとこだ。
俺と佐伯と近藤の3人は練習への参加率は非常に高い。
もっとも高校でもバドミントン部に入っていた経験者の佐伯はともかく、俺と近藤は大学に入ってから始めた初心者なのでこんなに真面目に練習に参加する意味はほとんどない。そういう意味では俺と近藤も不運なのかもしれない。
……ごめんなさい。
真面目に練習に参加しているのは近藤はモロ女子狙い。俺も高校まで男子校だったので近藤程にはあからさまでないものの女の子と仲良くしたい気持ちがありました。
ハイ。不運でもなんでもなく自業自得でございます。
それで成果はどうなんだって?
入部して半年近く未だ俺も近藤も彼女出来ていません!
1年生でも付き合い始めてるのが既に何組かいるっていうのに……
まぁ俺は女の子との接点接触が激増したからそこそこ満足なんだけど近藤は焦ってる感じがあるな。
名簿に記入した後でまだどこかに人がいないか手分けして館内を捜索したが他には誰もいなかった。
普段なら主婦や会社勤めの利用者がいるのだが、さすがに大型台風の最中に体育館に行こうとは思わなかったみたいだ。
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