第51話 モブはマジもんの呪いを目にする
◇◇◇
森を慎重に進む。街道は舗装されているわけでもなく、ただ地肌が剥き出しになっているだけの簡素な物だ。
日が暮れた今となっては、《街道》と偶に現れる《獣道》との区別を
シュロロロロ……
先程から、俺は超音波を使って周辺の様子を探っている。目の前に浮き出たマップには、俺を中心とした森の様子がしっかりと表示されていた。空間感知のスキルレベルが6になってからは、その探知距離は1キロ近くまで広がった。
そして、既にそのマップ上にはいくつかの動く点が表示されている。その中に、人間程の大きさの反応は一つだけ。
「
もちろん、セレーネとの鬼ごっこで学んだ教訓も忘れていない。
こちらが
だが、この音域を獣人の耳で捉えることは不可能だ。出掛けにコブとロッチで試してみたので、サンディにも聴こえないはずである。もっとも、セレーネにとっては耳を塞ぎたくなるほどの大音量だったみたいだったが……
加えて俺は、温度感知を薄く視界に重ねている。昼間にやると少々気持ち悪くなるが、暗闇の中で生き物の存在を見つけるには非常に有効な手段だ。
(そろそろ視界でも捉えられる距離に入ったな)
俺は目を凝らして前方へ集中する。
すると、確かに祠の様なものがあり、サンディはその前に居た。
サンディはゆらゆらと揺れながら、地面に何かを描いている。
(なんだ……? 何をしている?)
視界にようやくその姿を捉えはしたが、まだ距離はある。何をしているのかまでははっきりと分からない。だから俺は、ひとまず鑑定を発動してサンディを調べることにした。
(……鑑定ッ!)
◇◇◇
《鑑定結果.Lv 7》
種 族:ヒト種・獣人族
職 業:行商
性 別:雌♀
名 前:カサンドラ
状 態:憑依・ファムザの悪霊
強 さ:普通
レベル:35(5)
H P:315(105)
M P:360(120)
攻 撃:320(102)
防 御:314(88)
敏 捷:308(90)
技 力:342(115)
隠 密:304(74)
魔 力:402(133)
精神力:400(135)
スキル:「剣術.Lv4」「棒術.Lv2」「算術.Lv3」「嗅覚強化.Lv2」「闇魔法.Lv5」「召喚魔法.Lv3」
説 明:キャラバン隊「サンディ・リゾン」の副隊長。ファムザの悪霊に憑依されている。
◇◇◇
(え……なんか、強くない!?)
サンディのステータスは、以前野営地で確認した時よりも全てが上昇していた。少なくともセレーネを除いて、俺がこれまで鑑定してきた全ての対象よりも総合力で優っている。その辺りの有象無象に比べれば、はっきり強いと言っていい数値だ。
括弧内の数字は本来値だろうか? ファムザの悪霊とやらに憑依されているからか、レベルが恐ろしく高い。無理矢理に身体機能を上げられていると見ていいのかもしれない。
(これは、傷つけないで無力化するのは難しいかもしれないぞ?)
俺はステルスを発動させたままサンディに近づいていくが、気づかれた様子はない。
ブツブツブツ……りん……くだ……い……
サンディは呪文らしきものを唱えながら、己の血で魔法陣を描いていた。腕からかなりの量が出血しているが、彼女はそんなことを全く意に介している様子はない。そして、その陣の中心には不気味な黒い人形が置かれている。
(あれか! 呪いの人形は!)
俺はすかさず鑑定を発動させた。
◇◇◇
《ファムザの呪い人形》
かつてファムザの森を根白に活動した義賊・ファムザの怨念が込められた人形。ファムザは元来正義感の強い男であったが、仲間に裏切られて妻子を失ってからは悪魔信奉を始め、最期は降臨の儀に失敗して命を落とした。
儀式の際、悪魔の依代となる筈だった人形にはファムザの怨霊が宿り、叶わなかった悪魔降臨を果たすべくいまも生贄を求めて現世を彷徨っている。
◇◇◇
(やっべー……マジもんじゃねえかよッ!!)
ヒヤリとした汗が俺の頬を伝ったとき、突然サンディが人形を掴み、陶酔しきった様子で叫ぶ。
「さあ、この獣人の娘を依代として……今こそ降臨されるのです! 我が主人、デュモス様ぁあ!!」
刹那、魔法陣が怪しく光り始めた──
◇◇◇
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