第46話 モブとロッチ

 

 ◇◇◇



 コブの治療を終えた俺は、セレーネに頼んでロッチを起こしてもらった。流石にあんなことがあった後じゃ気まずいからね。とりあえず俺はステルスを発動させて聞きに徹しようと思っている。


 ロッチに聞きたい内容は既にセレーネと打ち合わせているので、一人でも問題はないはずだ。



「……ロッチ、ロッチ」



 セレーネはロッチに呼びかけながら、頬に軽くウサパンチした。



「んん……あれ? 僕、どうして……」



「ロッチ、目が覚めたのね! ほら、お友達はトモエがちゃんと治してくれたわよ!」



 セレーネはコブの周りをくるくると駆け回った。

 コブはまだ眠っているが、その寝顔にはしっかり生気が戻っている。ロッチはそんな友人の姿をみて涙ぐむ。



「う、うう。コブぅ……よかった。よかった……」



 まだ眠る友人の手をとったまま、ロッチはしばらく泣きじゃくっていた。



 ◇◇◇



 ロッチが落ち着きを取り戻した頃を見計らって、セレーネはロッチに問いかける。



「この様子だと、もうコブの体調は問題無さそうね。それじゃあ、キャラバンに何が起こったのか話してくれる?」



「えと……その前に、トモエさんはどこに行かれたんでしょうか? まず、お礼を伝えたいんです! あと、ごめんなさいも!」



 ロッチは辺りをキョロキョロと見回している。心なしかこちらに向かって長く視線を彷徨わせている気がしたが、結局ロッチの目線が俺を捉えることはなかった。



「ええ、トモエは……ちょっと疲れちゃったみたいで、ちょっとその辺の岩陰で休んでるわよ」



「え、岩陰ですか?」



 それを聞いたロッチは鼻をヒクヒクさせるが、やがてしょんぼりとした顔で俯く。



「……いいえ、トモエさんは近くにいませんね。匂いでわかります。やっぱり裸を見たから嫌われちゃったのかな……」



「そんなことないってば! コブの治療だってなんだかんだ大変だったみたいだけどちゃんとしてくれたしさ、心配することないよ!」



 セレーネは落ち込んだロッチを励ますが、ロッチの顔は浮かないままだ。



(う〜〜ん。やっぱり姿を見せた方がいいのか……?)



 俺はもう一度自分の容姿を確認する。うん、流石に服を着ていれば刺激が強過ぎるなんてことはあるまい。


 俺はステルスを解き、ロッチに話しかけた。



「私は貴方を嫌ってなんかないよロッチ。そんな風に落ち込むなんてね。ロッチが赤くなって話ができないんじゃないかと思って隠れてたのさ、すまないね」



「えッ!? そんな、確かに近くに気配を感じなかったのに……どうやったんですか!?」



 ロッチは急に隣に現れた俺に目を丸くして驚いている。



「おや、私は魔女だって言ったよね? 魔法で存在を隠すのなんて朝飯前だよ」



 内心でバレないかドキドキしつつも、俺は呼吸する様に嘘を吐いていた。


 ああ……さっき散々嘘つき呼ばわりしたラブリエルに、後でなんて言われるか怖いぜ。



「全く臭いもしませんでした……すごいんですね、……魔女って! 魔女ってほんと、すごいです!!」



(ちょ、誤魔化し方下手すぎぃッ!! 絶対いま痴女って言いかけましたねぇッ!?)



 俺はロッチのわかりやすい反応に絶句した。


 とはいえ、裸で外をうろうろしている奴のことを痴女と呼ばずして何と呼ぼうか。いや、痴女としか言えませんよねわかります。


 パターンピンク! 痴女です! 逃げちゃダメだ!!



 今も必至になって魔女だと訂正してくれているロッチは本当にいい子なあなんて感心していれば、ロッチは急に真顔になって俺に頭を下げた。



「あの、コブを助けてくれて本当にありがとうございました。僕に出来ることがあれば……いえ、どんなことでもします。この御恩は忘れません。……あと、途中で目を開けてしまってごめんなさい!」



「あはは、いいんだよ。ほら、顔をあげな。報酬は……そうだな、最初に伝えたとおり、ここで何が起こったのか教えて貰えるだけで十分。それに、私が見られたくなかったのは別のものだから、裸のことは事故だと思って忘れてくれたら嬉しいかな」



「はい! わかりました!」



 ロッチは俺の裸体を思い出したのか顔を赤らめている。見ていると俺まで顔が熱くなりそうだ。


 将来ロッチが変な性癖に目覚めないことを祈るばかりである。



「ゴホンッ! さあさあそれじゃあ、聞かせてもらおうか。いったいここで、何が起きたんだ?」



 俺が改めてロッチに問えば、彼は眉間に皺を寄ながらも、ポツリポツリと語り始めた。



 ◇◇◇

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