第44話 モブは丸呑みを使ってみる


 ◇◇◇



「ふう、よし。ひとまずこれでいいかな。悪いけど、セレーネはもう一度ロッチの側にいてくれる? これからまだロッチには見せられないシーンがあるから……万が一見られたらトラウマになっちゃうだろうし」



 俺は頭に血が昇って倒れたロッチを荷車に運ぶと、セレーネにロッチの様子を見ておくようにお願いした。

 ちなみに、服は荷車の中にあった女性用の物を一着拝借した。身長的にはピッタリだったが、やや胸が苦しい。



「オッケー、見張ってるよ。頑張ってね!」



「ああ、頼む」



 二人の乗り込んだ荷車のカーテンを閉めた後、俺は倒れているキャラバン隊員の一人に近づいていく。念のためもう一度鑑定で確認するが、既に彼は亡くなっている。俺は手を合わせて冥福を祈るとともに、いただきますと言うのを忘れない。


 やはり人の姿をしたものを経験値にえるのは躊躇われるが、ロッチとの約束を果たすためだと割り切ろう。



 とは思ったものの、どうやってよいのかわからない。

 


(うう〜ん、龍型の時には文字通り呑み込めばよかったけれど、人型だとどうすればいいんだ?? もしかして、噛み付くのか??)



 流石に少女この姿のまま死人を丸呑みにしていたら、ちょっとしたホラーである。そもそも口がそこまで開くのか? もしそうだとすれば、見方によっては龍型の時よりも化け物感がある。



(そうだ。こういう時こそ鑑定の出番だな)



 俺はステータスを開き、スキル欄の《丸呑み》を鑑定する。



 ◇◇◇


 《丸呑み》


 対象を喉の奥にある異空間に収納する。龍型の時は口から直接呑み込む。人型の時は片手を突き出し、対象を取り込むことをイメージしながらスキルを念じれば発動する。

 物理的に龍型の顎の大きさ以上のものは呑み込めない。


 ◇◇◇



(ふむふむ。片手ということは、どうやら口から呑み込まなくてもいいみたいだ。よし、やってみるか)



 俺は右手を突き出して、獣人の亡骸を取り込むイメージを頭で描きながら《丸呑み》と念じてみる。

 すると掌がぼんやりと光りだし、そこから大口を開けた半透明の蛇の頭が飛び出した。それは獣人の亡骸へ重なるようにして口を閉じると、光のエフェクトを残して亡骸諸共消え去った。



『レベルア〜ップ! さ、あの獣人の子供を治しましょう!』



 俺の脳内に再びラブリエルの声が響く。



(はぁ……勝手に俺を人型にしたことにはノータッチかラブリエル?)



『ええ〜、そこは、可愛い女の子にしてくれてありがとうラブリエル! の間違いでは??』



(うるせぇ!!)



 ラブリエルとそんなやり取りをしつつ、俺はコブの負った怪我の修復を試みるのだった。



 ◇◇◇

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