第43話 モブはヒトにリビルドされた!
◇◇◇
「だ、大丈夫なのトモエッ!?」
俺の悲鳴を聞き、荷車からセレーネが飛び出して来た。
「……ッて! ……ええ、誰えぇッ!?!?」
セレーネも俺の姿を見て絶叫を上げる。人が苦手なセレーネだ。俺の姿を見るなり逃げる体勢になっている。
「ちょま!! セレーネ、俺だ! トモエだよ!! ほら、この眼の色見て灰色! 俺にも全然よくわかんないけどッ!」
後ずさるセレーネに、俺は片手で目を差して自分がトモエであると主張した。
「その声、その眼の色……確かにト、トモエ!? なんでいきなりそんな姿に!?」
「わ、わからん。いつの間にやら気がついたらこんな風に……」
俺は腕を組んで考える。
思い当たるとすれば、これは間違いなくラブリエルの仕業だ。
先ほど尾を吐き出せずに噛みちぎりそうになった俺を、彼女は無理やり再構築のスキルを発動させて助けたのだ。
その際、俺は傷の修復をされたのだとばかり思っていたが、どうやら違ったらしい。再構築は傷を癒すスキルではないのか?
俺はステータス画面から再構築のスキルを鑑定してみる。
◇◇◇
《
経験値を消費して飲み込んだ対象を再構築するスキル。この際、対象の構成要素そのものに働きかけることにより、物体を原子レベルで再構築することが可能。主なオーダーには修復、錬成、合成、加工が存在するが、使用者のイメージによってその可能性は無限大である。ただし、オーダーの難易度が高いほど経験値の消費量は増加する。
◇◇◇
やはりか、恐らくラブリエルはあの時、俺の身体を再構築して物理的に尾を消すことで、俺が噛みちぎってしまうのを回避させたのだろう。それで吐き出したことと同義になったのは何だか解せないが。
(いや、暴走するのを回避させてもらったことには感謝するけど、見た目変わったんならちゃんと言えし……)
俺はラブリエルに感謝する反面、人化したことに言及しなかったことには少し不満を覚える。
(あんにゃろう、
俺の脳裏にぷすすと笑う残念天使の顔が浮かんだ。
まあ、とはいえこれでロッチに姿を見られてもひとまず問題は無くなったわけだ。それに、レベルを上げたらすぐにラブリエルは飛んでくる(まあ、見えないが)のだし、ちょっとした悪戯だと思えば可愛いものだと思えなくもない。
「セレーネ、どうやら新しく覚えた俺のスキルは、身体を修復するだけのものではないらしい。今回はスキルを覚えるために発動させてみたが、図らずも自分の身体の作りを変えてしまったようだ」
「うう〜ん。何言ってるかよくわかんないし、まさかトモエが人になっちゃうなんて思わなかったけど……元がトモエだって分かっているから別に怖くはないわね」
俺が再構築のスキルについて軽く説明するも、セレーネはあまりよくわかっていないみたいだ。まあ、とりあえず怖がられてはいないようだし、俺もまだ再構築について詳しいことは説明できないので仕方がない。追々理解してもらえばいいだろう。
「ふええ〜ん。き、急に一人にしないでください〜!!」
そんなやり取りをしていると、ロッチがセレーネを追いかけて外へ飛び出して来た。
「あ、ロッチ!! ちょっと、まだこっちに来ちゃダメ!!」
俺はロッチに向けて叫ぶが、彼は軽くパニックになっていて聞こえていないようだ。
「いいじゃないトモエ、ちょっとくらい姿を見せてあげても。ほら、もう龍の姿じゃないんだから?」
「い、いや。セレーネさん!? そういうことじゃないんだ!! 人間にはちょっとしたマナーってのがあってね!?」
「マナー? おーい、ロッチこっちだよ〜」
セレーネは何も分かっていない。いま俺がロッチと出会うことのリスクを!! セレーネはピョンピョン飛び跳ねながらロッチを呼び寄せようとしている。
(あ、ダメ、これはいかん! とりあえず、セレーネバリア!)
「ッきゃ!!」
いきなり俺に抱きかかえられたセレーネが小さな悲鳴を上げた。すまん、セレーネ。いま手元に適当なものがないのだ。
「トモエさ〜ん、セレーネさ〜ん……どこに行ったんです……ッ!?」
俺たちを見つけた瞬間、ロッチは固まった。
そりゃそうである。いきなり目の前にウサギで前を隠した
「ト、トモエさんですか……そ、それはセレーネ? えと、いったい何してるんですか……?」
やばい、これはかなりやばい!!
「え、えええ〜〜とね、ち、違うよ!? 私は好きで服を着ていない訳ではなくてだね!? これには訳が……」
「急になんなのトモエッ!? 離してよ〜〜!!」
説明もなくいきなり抱きかかえられたセレーネは、ジタバタと暴れて俺の腕から抜け出ようとしている。
ああッ!? セレーネさん、ダメです!?
健闘むなしく、ついにセレーネは俺の腕から飛び出した。
……ヒョォォォォ──
ああ、気まずい。
丘を吹き抜ける風がこんなにも冷たく感じたのは、この世界に来て初めてだった。
「ロ……ロッチ? とりあえず、服を着たいから、あっちを向いててくれるかな?」
俺はロッチに声をかけるも、ロッチからの反応はない。
「ロ……ロッチく〜ん??」
俺がロッチの顔を見つめながらもう一度声をかけると、ハッと我に返ったロッチと一瞬だけ目が合う。しかし彼はそのまま顔を真っ赤にしてアオーーンと一声咆哮したかと思えば、鼻血を流しながらその場でひっくり返ってしまった。
「ああッ!? ロッチどうしたの!? ト、トモエッ!! ロッチが大変!! 鼻から血が出てる!!」
セレーネが目の前で突然倒れたロッチに駆け寄る。
しかしだ、セレーネ。それは半分は俺の、そして半分はセレーネ、お前のせいである。
「大丈夫、元気な証拠だ」
「ええッ!? 血が出てるのに!?」
セレーネよ。
そうなのだ、健全な男子とはそういうものなのだ。
「ち……」
「あ、待って! ロッチが、なんか喋ろうとしてる!!」
セレーネと俺は、ロッチの言葉を一言一句聞き逃すまいと耳をすませた。
「ち、痴女……ガクリ」
こうして俺は龍ではなく、無事に人間(痴女)としてロッチに認定されたのだった。やったね!!(泣)
◇◇◇
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