第31話 モブは聞き耳を立てる


 ◇◇◇



 声が聞こえる距離まで近づいてみれば、一団は歩みを止めて何やら話し合いをしているようだ。頭からケモ耳が生えていたので、彼等が獣人種であることはすぐにわかった。



 隊は10人程の獣人で構成されている。3台の荷車を引いているのは、毛の長いウシの様な獣だ。試しに鑑定してみるが、「ヤク」というらしい。あまり馴染みはないが、前世にもそういった名の獣がいた様な気がする。ヤク達はかなり疲れているようで、鑑定結果にも「状態:疲労(大)」と出ている。



 続けて獣人達も鑑定してみた。レベルは高いが、ステータスは俺やセレーネに遠く及ばない。それを見て俺は安心する。



 一応記しておくと、キャラバンの中で一番強い者でもこんな感じだ。



 ◇◇◇


 《鑑定結果.Lv 6》


 種 族:ヒト種・獣人族

 職 業:行商・戦士

 性 別:雄

 名 前:リゾン

 強 さ:とても弱い

 レベル:18

 H P:145(178) 

 M P:35(51)

 攻 撃:160

 防 御:132

 敏 捷:76

 技 力:195

 隠 密:84

 魔 力:32

 精神力:94

 スキル:「棒術.Lv4」「算術.Lv3」「嗅覚強化.Lv4」

 説 明:キャラバン隊「サンディ・リゾン」の隊長


 ◇◇◇




 これが一般的なヒト種のステータスであるなら、どうやら俺達の脅威となるような存在にはしばらく遭うことはないかもしれない。



行商隊キャラバンか……なんだかいよいよ異世界っぽいな。積荷は何だろう??)



 俺はそろそろと荷車に近づいて中身を鑑定する。3台ある荷車のうち1台は旅の資材車の様で、生活雑貨が積まれていた。


 残る2台に山の様に積まれた樽は「酒樽……馬乳酒 品質:良」と表示されている。他にもチーズや茶葉などの食料品と、香料のようなものを運んでいる。そちらの品質には「優」と出ている。流石は獣人、鼻が効くようである。


 とはいえ、ステルスを発動させた俺には全く気がついていないが。



 続けて、俺はまた一団から少し離れた位置に戻り、彼等の会話に耳を傾けることにした。



 ◇◇◇



「サンディ、まだ毛長牛たちは動きそうにないかい?」



「ええ父さん、だいぶ疲労が溜まっているみたい。今回の積荷は重たいものが多いから……まだ次の村までは遠いの?」



「ああ、まだ遠いな。歩いて半月ほどはかかるだろう」



 一団の前方で地図を広げて会話をするのは、先程鑑定したこの一団の隊長であるリゾンという獣人だ。相手はその娘で、鑑定結果ではカサンドラというらしい。



「そう、なら今日はこの辺りで休んだ方が良さそうね。このまま進み続ければ明日以降の旅に響くわ」



「わかった。……おお〜い!! 皆んな聞け!! 今日の移動はここまでだ、野営の準備をしてくれ!!」



 カサンドラの提案を受け、リゾンがキャラバンの隊員に方針を伝えた。




「「「おう!」」」



「やっとか〜」



「なんだか今日は急ぎすぎっすよ隊長、サンディちゃんお疲れ!」



「ああ、すまないな。今日は長めに休んで、明日の昼頃出発しよう。まずは積荷を確認してくれ」



「「了解」」



 隊員達は次々に応えると、リゾンの指示で資材車から野営に必要な器材を下ろしたり、積荷の酒樽から酒が漏れていないかなどをチェックしていく。



 テキパキと指示を出すリゾンに、カサンドラが再び近づいていった。



「父さん。今日は随分と急いでたように感じたけれど、いったいどうかしたの?」



 不安そうな顔をしているカサンドラに、リゾンは何でもないという風に返事をした。



「……え? そうかな? いつもの通り腹時計でペースを刻んでいたはずなんだが……?? 腹が減ってわからなくなってしまったのかもしれないね」



 ニコリと笑いながら冗談をいうリゾン。

 それを見てカサンドラは困った様な、安心した様な顔で応える。



「な〜んだ、父さんも疲れが溜まっているのね。わかったわ。じゃあ、出発は明後日に伸ばしましょ! 今回腐るものは積んでないから平気よ」



「……あ、いや……」



「ダメよ父さん、しっかり休んで。指示は私が出しておくわ。隊員さん達に何もないのもつまらないだろうから、少しお酒を振る舞うわね!」



 何かを言いかけたリゾンを黙らせて、カサンドラは隊員達に出発の延期を告げに向かった。続けて隊員達の歓声が聞こえる。


 その背が遠ざかるのを見送った後、リゾンは難しい顔で一人呟いていた。



「まさか……魔除けのお守りアミュレットが弾け飛ぶなんてな……。俺のにはかからなかったが、あそこに何かがいたのは間違いない。かなり急いだから、もう振り切れたと思いたいが、しばらくは警戒を緩めないようにせねばな……」



 リゾンの呟きは、丘を流れる風に溶けていった。


 

 ◇◇◇

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