第29話 強さとは何か
◇◇◇
「……いや、やめておく」
セレーネの悲痛な顔を見て、俺は彼女の提案を否定した。
「え……なんで……?」
セレーネはホッとした様な、しかしやはり納得していない様な顔をしている。
「私だって知ってる。いえ、この世界に生きてるものは皆んな知ってるわ。龍って、何より強さを重んじるんでしょう?」
セレーネは続けてそう言った。
「はは。そういうことか……」
ここで俺は、セレーネの提案の意味をようやく理解した。
俺が寝込んでいる間に、彼女は色々と悩んでくれたのだろう。
「仲間をもう一度食べろ」だなんて唐突な発言のように思えたが、これは彼女なりに龍を理解し、友達になるために歩み寄ろうとした上での結論だったのだ。
「セレーネ……確かに俺は、落ちこぼれなんて言われて、強くなりたいって気持ちは人一倍あるさ。せっかく龍に産まれてきたんだ。強くなって、色んなものを見返してやりたいって気持ちはあるよ。けどね……」
俺はセレーネの目をしっかりと見つめながらこう告げた。
「初めてできた友人にそんな顔をさせてまで、強くなりたいわけじゃない」
「…………!!」
「セレーネ、俺を見くびらないで欲しい。俺は龍だ。お前達を食べ物として見ないと言った以上、俺は自分の言葉を曲げない。俺は苔ウサギ達を食べない」
セレーネは目を見開いたまま固まっている。
「龍が一度した約束を違えることはない。それを守る強さがあるから、龍なんだ」
自らの決断を、夢を、信念を、約束を、現実に変えるチカラのことだ。
何より強さを重んじる龍が、その約束を違えることがあってはならないのだ。
「セレーネは俺の友達だ」
俺は牙の裏に隠していた首飾りを取り出すと、ゆっくりとセレーネの首元にかけてやる。
「俺は、友達を傷つけるようなことはしない」
俺がそう言うと、セレーネの大きな目からポロリと涙が溢れる。
その雫は、彼女の胸元で光る紫の宝石と同じくらい美しかった。
そして彼女は、ニッコリと微笑みながら言った。
「……うん!!」
◇◇◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます