第23話 モブは誠意を見せる


 ◇◇◇



(Oh……超絶望的に気持ち悪いんですけど……)



 腹の中に入れていた全ての苔ウサギを吐き出して、いま俺はめちゃめちゃ気分が悪い。何なら吐きそうだ。いや、もう吐いたけどね。


 だけどどうだ、見たかぼっちよ。

 俺は食べてない。ウサギ、食べてないぜ。飲み込んでたけどな。



「ほら、俺は食べてない。ちょっと喉ごしを味わっていただけだ」


 

 俺はニコリと超絶イケメンな(つもりの)スマイルをぼっちに向ける。


「どうだ、これが俺なりの誠意だ。伝わって……」



 ぼっちはというと、穴の隅の方で吐いていた。



「……ないね。」



 オロロロ……



(あ、なんかすまん……)



 そんなやりとりをしている内にも、俺の吐き出した苔ウサギ達は次々に目を覚ましていく。


 繁殖期であるため、いまの苔ウサギはいつもと違って動き回るのだ。ピョンピョンと跳ねて元気そうだ。さっきの奴らは疲れていたのかノソノソって感じだったけど、こいつらはイキがいいぞ?



「ほらな? ちゃんと生きてる……」



 俺がそう口にしかけたところで、近くにいた二匹の苔ウサギがおもむろに重なった。そして上になった方の一匹が、下になっているもう一匹に対し、もの凄いスピードで腰を打ち付け始めた。



「……だ……ろ??」



 ──スパンスパンッ!! ガガガガガ……ッ!!



 …………?



 ッアーーーー!!



 こらあかん!! あかんやつや!!



 流石は繁殖期のウサギである。完全に盛っていて、とても荒々しい。いつもの苔ちゃんじゃない……ッて感じだ。

 そんなに激しく動けるのなら、普段からもう少し動けばいいのに……



「あはは、そういえば……いまは繁殖期でしたね。これは、なんとも羨まけしからん……ゴホンッ! じゃなくて……なんか、失礼しました」



 俺は、何とも言えない光景を生み出してしまったことに対してぼっちに謝罪する。だが、どうやらぼっちはまだ壁に向かって吐いていて、後ろの惨状に気がついてないらしい。



(……あ)



 俺が暫く静観していると、数匹のオスの苔ウサギ達がふらふらとぼっちに向かって近づいていく。



「うう……ちょっとアンタ何触ってんのッ! って……え?」



 ぼっちはようやく気がついて振り返るが、そこにいるのは俺じゃない。オスの苔ウサギだ。あっ! お巡りさん痴漢です!!



「キャアッ!! いや!! 離してッ!!」



 ぼっちは声を上げて抵抗するが、繁殖期のオスウサギは普段からは考えられないような力でぼっちを組み伏せる。それに、ぼっちの言葉も通じていないのであろう。目が完全にキマっている。



「しょーがないなあ……ッエイ!!」



 パッカーンッ!!


(ストラーイクッ!!)



 ぼっちの貞操が奪われようとしたその瞬間、俺は尻尾を振ってオスの苔ウサギ達を跳ね飛ばした。



「ふう。お嬢さん、お怪我は?」



「え……いいえ。ないけど、でも……なんで助けてくれたの?」



 ぼっちは何故自分が助けられたのかわからないようだ。混乱した顔で俺を見つめている。


 跳ね飛ばされた苔ウサギはといえば、また他の個体を見つけてすぐさま行為に勤しんでいる。これが大自然のたくましさってやつですか?



「え〜〜と……なんか嫌そうだったし。うまく言えないけど、そういうことはやっぱり好きな相手としたいじゃん、ね?」 



 俺はぼっちにそう声をかけてから、彼女を背に乗せて落とし穴を出たのであった。



 ◇◇◇

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