第22話 モブはぼっちと話がしたい!


 ◇◇◇



「おーおー。なかなかうまくいったな」



 俺は、はぐれ苔ウサギの落ちていった穴を覗き込んで呟く。穴の中にはしっかりと熱源反応がある。諦めが悪く動き回っているが、真っ直ぐに深く掘ったので、恐らくウサギが自力で出ることは不可能だろう。


 そう、俺は自分の抜け殻とそこら辺にあった岩を使って落とし穴を作っていたのだ。



「いやー、もうちょっとこれで驚かせたかったな〜」



 さらに、俺は近くにあった自分のを尾の先でスパンと割ってみせる。ゴロリと転がるようにして出てきたのは、数匹のモブの苔ウサギである。


 苔ウサギ達はピョンピョン……というよりはノソノソという感じで俺から逃げていった。



「あいつらって、でも、あんまり機敏じゃないんだな」



 俺が谷の中央に幾つも用意したウロボロスはもちろん偽物だ。自分の抜け殻に岩を詰め、尾の先に苔ウサギを詰め込んでいただけの即席デコイだったが、俺から逃げようと必死のはぐれ苔ウサギには十分本物に見えたらしい。


 鑑定結果から苔ウサギの繁殖期が近いことを知ったとき、俺はこの作戦を思いついた。まさしく鑑定様々である。


 鑑定レベルが上がったことで、「」という、いわば辞書を引くような機能が付いたのである。


 だがそれだけじゃない。その他には、例えば他種族言語理解機能──いわゆる翻訳機能だ。



「あの反応を見るに、こちらの言葉はしっかり届いていたみたいだな?」



 俺は、穴を再度覗き込むようにして話す。



「あー、あー。どう? 聞こえてる? 俺の言葉わかる?」



 俺ははぐれ苔ウサギに向かって呼びかける。



「……」



 しかし、はぐれ苔ウサギから帰ってくる反応は沈黙である。


 

(ん〜。警戒しているのか? それともやっぱり、俺の言葉が理解できないのだろうか? 《鑑定.Lv6》に上がって言語翻訳の機能がついたので試してみたが、これはあくまでもリスナーとしてしか発動しないのかも……)



 俺がそんなことを考えていると、はぐれ苔ウサギはついに口を開いた。



「何なのアンタッ! 話せるの!? だったら話が早いわ。こんなことしてないで、早く降りてきて私を食べなさいよ!」



 案の定、はぐれ苔ウサギ……いや、もうぼっちでいいか。ぼっちは俺の荒っぽいやり方に怒っているみたいだ。



 俺はぼっちを踏み潰してしまわないよう、ゆっくりと穴の中へ降りる。



「まあ待て、俺もこの世界へ来て初めて存在と話ができるんだ。少し色々と話をさせてくれ」



 俺は出来るだけ優しいトーンを保ちつつ、ぼっちと会話を試みる。



「ッはん! よく言えたわねそんなセリフが! アンタは私達苔ウサギのことを餌だとしか思ってないくせに! いくら話をしたって、最後にはパクッと食べるんでしょうが!! さっさと殺しなさいよ!!」



 ぼっちはどうやら自暴自棄になっているらしい。

 それもそうか。ここ数日、俺はこいつら苔ウサギを腹に入れまくっていたのだから。



(うう〜ん。どうしようかな……)



 俺はしばらく悩んだが、背に腹は替えられない。ここはちょっと狭いが、まあ上までは届かないか。



「少し、待っていろ」



 俺は腹の底に力を入れる。



「……ぐ。ぐぬぬぬ……」



 俺の口から変な声が漏れる。あ……ッ耳塞いでてちょっと恥ずかしい。



「ッえ!? 何!? 何なのよ〜〜ッ!?」



 異様な俺の雰囲気を感じ取ってか、ぼっちは情け無い声をあげている。



 ……ボトリ。



 恐がるぼっちを他所に、俺の口から苔ウサギが一匹転がり落ちた。



「……は?」



 ぼっちは口をポカンと開けてそれを見ているが、まだこれで終わりじゃないぞ??

 


 ボト、ボトトトト……


 


 オロロロロロロロロ──……



 俺は口からいままで飲み込んだ全ての苔ウサギを吐き出した。



 「ッッッギョェエエエエエええええええええ!?!?!?」



 その光景を目にしたぼっちの悲鳴は、落とし穴を抜けて谷いっぱいに響いたのであった。



 ◇◇◇


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