第21話 モブはウサギを捕まえたい!
◇◇◇
ついに来た──この日が、はぐれ苔ウサギと対決する日が。
この時のため、俺はこの谷の地形を隅まで調べ尽くした。
この谷は東西に細長く伸びており、中央に近づくほど広くなっている。俺の産まれた卵がある場所はその東の端、俺は基本的にいつも谷の東側を縄張りにして動き回っていたので、はぐれ苔ウサギは俺との追走劇以降、谷の中央より
そして、いま俺は西の端近くまで来ている。
ステルスを使用してヤツに近づいたが、やはり音を完全に消すことはできなかったらしい。
はぐれ苔ウサギは俺の間合いに入る前に、中央の広場へ向かって逃げていった。
(ほほう。やっぱり耳がいいな)
しかし、ここまでは俺の狙い通りだ。
その一瞬のすれ違いざまに俺はヤツを視界に捉え、その存在をマークすることに成功している。
《マーキング》は、一度視界で捉えて認識した対象の位置を常に把握することができるスキルだ。これで俺は、音を出さずにマップ上を動くはぐれ苔ウサギを追跡することができる。
(まず、作戦の第一段階は成功。うまく中央の広場にヤツを誘導できたな)
はぐれ苔ウサギは用心深いため、基本的には中央の広い空間をぐるぐる
だが、これまでずっと俺から距離を取っていたお前は知るまい。そこに俺が仕掛けた罠を。
(素早いな。やはりヤツを捕らえるためには脚を止めるしかないか)
続けて、俺は次の作戦を発動させることにする。
肺いっぱいに空気を吸い込むと、俺は先日の宣戦布告の時にも負けない大声で咆哮した。
──グギャォオオオオオゥ!!
大地がビリリと震える。
一瞬遅れてから脳内に浮かび上がったマップには、音源から遠ざかるようにして東へ向かって移動する赤い点が表示されている。
(ふっふっふ……いいぞ、そっちだ。逃げろ逃げろ)
はぐれ苔ウサギの動向を確認した後で、俺は一人笑みを浮かべた。
(あとは、アレを
ニヤリと邪悪な笑みを浮かべながら、俺は再度ステルスを発動して移動を再開するのであった。
◇◆◇
(ふふん! アンタが近づいていたのはお見通しよ!)
はぐれ苔ウサギは、大蛇の接近を敢えて待ち構え、自分の寸前まで来た所で一気に
どれだけ近づいても自分に追いつくことはできない。そう蛇に思い知らせてやる必要がある。
後ろを振り返るも、蛇に急ぐ素振りは見えない。
大きく咆哮し、またゆっくりと体色を岩と同化させていく。
(何よ、また隠れて近づいてくるつもり? そんなこといくらやったって……えッ!!)
彼女は、突如として目に飛び込んできた光景にギョッとする。
何故なら、谷の中央部にはとぐろを巻いた
(ッぇええええ〜〜!!!! 何よこれぇええッ!? アイツって一匹じゃなかったの!?)
まだ眠っているのだろうか?
大蛇達に動き出す様な素振りは見えない。だが、先程の咆哮が聞こえたのだろう、尻尾の先がグネグネと動いている。こいつらが起きて動き出すのは、もう時間の問題かもしれない。
(これじゃあ、広間を大回りして逃げられないじゃない!! ぐずぐずしてると、またアイツが来ちゃう!!)
はぐれ苔ウサギは、必死に逃走経路を探す。
(あった!!)
彼女は何とか蛇達の間を抜けられそうな細いルートを見つけた。
通ったことのない道だが、ここならあの眠っている蛇達に気づかれることはないだろう。
(……来なさいよ。アタシは最期の最期まで、逃げ回ってやるんだから!!)
シュロロロロ……
大蛇の唸り声が近づいてくる。
(ふんッ! 学習しない蛇ね! 姿を隠してもアンタの
はぐれ苔ウサギは、一気に細道へと脚を踏み入れた。
「意外に簡単だったな、もっと警戒されるかと思っていたんだが……」
突如、後方から聞き慣れない女の声が響く。
「
彼女は思わず後ろを振り返った。
声の主はあの大蛇だった。
大蛇は擬態を解いて姿を現すと、その太い尾を横薙ぎに払う。その勢いで、細道の側に並んでいたいくつかの大岩が吹き飛んだ。
直後、彼女の走っていた
(ッえ!?)
何が起きたのか全くわからないまま、はぐれ苔ウサギは闇の中へと落ちていった。
◇◆◇
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます