第11話 モブvsウサギ
◇◇◇
(ウサギ……いねぇ〜)
あれからしばらく辺りを捜索したが、ウサギは見当たらない。
苔むした岩が転がるばかりで、この谷底には他に碌な生き物はいないようであった。
(ん〜。そもそも陽の光が余り届かないから、ここには食べる物があの苔くらいしかないのかもしれないな……ということは、早めに上に登らないと飢え死にしてしまう可能性もあるか)
安全な場所に産み落としてもらったことは親に感謝しかないが、それが逆に仇となっていることも否めない。
俺はひとまず目を閉じて、今後のことを考える。
(とりあえず、何か口にしたい。そういえば、卵の殻って何気に栄養あるんじゃないか? 中からは食べられなかったけど、割れてその辺りに散らばっていた殻はサイズ的にも何とか食べられそうだ)
卵から出た場所からはだいぶ離れてしまったが、食べられるものが他に見当たらない以上、ひとまず元居た場所に帰ってみるのも良いだろう。もしかしたら親龍が近くに餌を残してくれている可能性もある。
ぼんやりとそんなことを考えていれば、視界の端に幾つかオレンジに色づいた場所があることに気がついた。
(……ん? 何だありゃ)
目を開いて先ほどの場所を見るが、そこには苔むした岩が転がっているだけである。
(……?)
俺がその岩を凝視していると……
キュィン……ポワン
《鑑定結果.Lv1》
種族:獣種
名前:──
強さ:とても弱い
視界に、見覚えのある鑑定結果が出てきた。
(お、おお!? なんだ!? これ、あのウサギか?)
今度は片目だけ閉じて辺りを見てみる。
同じように苔の生えた大小の岩がそこら中に転がっているが、閉じた片目ではそのうちのいくつかがオレンジや黄色に色づいて見える。テレビ番組で見たことがある赤外線カメラみたいだ。
(なるほど、ピット器官ってやつか? そしてこの辺りの岩……いや、岩だと思っていたものは、どうやらあのウサギのようだな。岩に擬態して隠れているのか)
俺はそのうち小ぶりな一つにスルスルと近づいてみる。
ウサギはじっとして動かない。蛇に睨まれたウサギ? ……とでも言うのだろうか? それとも、気がつかないまま休んでいる?
尻尾でツンツンと突いてみる。
やはり、動かない。
(何だこいつ……)
逃げる様子がないことに安心しつつ、俺は口を開けてかぶりつく
(とりあえず、いただきます!)
ガキキンッ!! ……ボキッ
(……っえ)
牙が折れた。
俺の牙は半ばまで突き刺さったものの、ウサギの肌を貫通するまでには至らず、根元からポッキリと折れてしまった。
ウサギの肌は文字通り、岩のように硬かった。
◇◇◇
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