第6話 ……ふっ。なかなかどうしてモブいじゃねぇか

 

 ◇◇◇



(ん……んん)



 意識が戻ると、俺は真っ暗な空間に横たわっていた。

 少し寒い気がする……ぶるりと一度身体を震わせれば、周りへ伝播した振動が跳ね返って伝わってくる。



(おお、なんだ? 眼は見えないけど何だか周りがどうなっているかわかるぞ!?)




 どうやら俺は、どこか穴倉のような場所にいるみたいだ。




(なんだここ……? 暗いしなんか狭いな……)



 俺の居るところを中心にして球状に広がるこの空間。恐らくこれは、卵の中だ。


 殻の内側がひんやりとして気持ちいい。

 



(ラブリエルのやつ、転生先選んだ途端転生させやがって……もっとこの世界のことを聞こうと思ってたのに。そんで、邪竜って何だよ。めっちゃヤバそうなのに転生しちゃったよ)



 とりあえず、少し身体を動かすくらいのことはできそうだが……

 さわさわと身体を揺らしてみるも、伝わってくる振動からは出口のような場所を感じ取ることはできない。



(あれ……ちょっと待ってこれどうやって出るの……?)



 俺は卵を割って出てくる雛鳥をイメージしてみる。


 そう、こんな時に役立つのは嘴だ。アレで卵をコンコンとやって穴を開けるんだ。そう、嘴でコンコン……。。。



(ッておお〜〜い! 龍にはたぶん嘴ないよ!!)



 俺は一人でツッコミを入れつつ他の方法を考える。



(龍……龍か、龍と言えばツノ……ツノ……)



 俺は頭にツノがないか手で触ろうとするも、もう一つ大事なことに気がついてしまった。



(ちょっと待って手がないよ!?)



 そう、手がないのだ。ウネウネしながら手を頭に当てようとしたが、手どころか、身体のどこにも腕らしいものがついていない。


 邪竜って、なんか蛇みたいな感じなんだなぁ……




(ええ〜、手……無いのかぁ。それじゃあせめてツノ……)



 俺は、頭を壁(殻)に擦り付けて、いちおうツノがないか確認してみる。



(……ツノねぇぇぇ〜〜〜!!)




 ツノも無かった。




 ◇◇◇





 あれから俺は、なんとかして外に出られないか試してみた。



 ペシペシと尻尾で叩いてみたり、ゴチンゴチンと頭を殻にぶつけてみたり……結果わかったことは……




(この殻、硬ってぇ〜〜!!!!)




 そして、冷静になって考えてみた。




 恐らくだが、普通龍は自身で殻を破って出て行くのであろう。それこそは、に、何の迷いもなく出て行くのだろう。



 だが俺はモブなのだ。邪竜などという凶悪そうな種族に生まれながら、自分の卵の殻さえ破れないほどの……



(……ふっ。なかなかどうしてモブいじゃねぇか)




 心の中でつぶやくが、そんな声に反応してくれる存在などいない。さっきから、物音ひとつ聞こえないし。殻がそれだけ分厚いからだろうか?



(っくそ! いや、その発想はなかったよ!! もっとさ、殻を割ってジャジャーンみたいなとこからスタートだと思っていたよ!!  それで湖とかで水面に映る自分の姿見てほほ〜〜んってなるみたいなさ!! まさかの卵の中からなんて!!)



 そういえば鳥の雛とかでも一番最初の試練が卵割ることだって聞いたことある気がするぞ? ドキュメントとかで見たことあるなぁ……卵割れずに死んじゃった雛の…………




 そこまで考えてから、俺は血の気がさーっと引いていくのを感じる。




(いやッこらあかん!! マミーヘルプッ!! ヘルプミーマムッ!!)



 しかし、親龍の助けをいくら待っても無駄である。

 この種族、どうやら卵を産み落とすと親龍は死んでしまうのだ。




(さあ、どうしたものか……)




 ◇◇◇

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