第3話 エキストラ……それってつまりモブですよね?
◇◇◇
「っえ? エキストラ……ですか?」
俺は、天使に問い返す。
「はい、エキストラです。有り体に言えば、世界の進行に左右しない、フレーバーテキストのような存在……端役、モブなどと、申した所ですかね? それであの……お気づきかどうかはわかりませんが、萌文様は先の人生でもエキストラだったんですよ?」
「え?」
──皆んなが自分の人生の主役なんだぞ。だから、自分の人生を悔いることのない様、立派に生きてくれ──
中学校時代の担任が、卒業式後のHRで言ったそんな言葉を覚えている。なんだ、アレは嘘だったのか。やっと自分の惨めな人生が腑に落ちた気がした。
碌なことがない人生だった。こんなのが主役じゃあ、興行収支は大赤字だろう。じゃあ、
「あ〜、お考えになっている事はだいたいわかります。えっと、順番に説明いたしましょう」
ラブリエルはくるくると指を回しながら、空中にピラミッドの様なものを描き始める。
「一般的にこの世に存在する魂には、大きく分類して3つの
彼女はそれを3つのエリアに切り分けると、一番上で輝く小さなエリアを指して続ける。
「第一に
次に彼女は、先程より少し大きめの、真ん中のエリアを指して続ける。
「次に
最後に彼女は、ピラミッドの中でも一番大きなエリア、最下段のエリアを指して言う。
「最後に
「……重要な役割?」
俺は、湧き出た疑問をそのまま口にする。
「はい。萌文様は、2つのスターの生涯において多大な功績を残されました。1つ目は貴方様の妹君、萌香様の人生においてです」
「萌香が? 何かをしてやった覚えはありませんけど」
俺は頭を捻るが、本当に何も思い浮かばない。
「萌文様は、萌香様と最期に交わした会話を覚えてらっしゃいますか? 萌文様はひどい嵐の中、人助けをすると言って家を立ち、その後亡くなられました。この体験は萌香様の将来性を決定付け、後に気象学分野に置いての第一人者と呼ばれるまでに、彼女の才能を引き出したのです」
妹が、萌香が俺の死をそこまで真剣に受け止めてくれたことが嬉しかった。
思えば兄らしいことは何一つしてやれなかったが、それが
「2つ目は?」
全く見当もつかないが、まだあるのだから聞いておこう。俺はそんな気持ちでラブリエルに問いかけた。
「2つ目は、ある盲目のピアニストの生においてです。これは少し、間接的な貢献にはなりますけれども。貴方の助けようとしていた子猫……確か、エルフでしたね。あの子猫は嵐を生き延びて、ある盲目のピアニストに拾われたのです。彼女は妻を失って折れかけていたピアニストの心の傷を癒やし、後に彼が世に数々の名曲を送り出すきっかけとなりました」
それを聞いて、萌文はゆっくりと目を閉じる。
俺の人生は、俺の死は無駄ではなかった。
確かに自分で何かを成すことはできなかったが、こうして俺の命が多くの人のために役立ったということがわかったいま、心には満足感しか残されていなかった。
「わかった、もう十分です。ありがとう教えてくれて。これで安心して逝けます」
「ちょちょちょ!! ちょっと待って下さい!! 成仏されては困ります!!」
ラブリエルはわたわたと手を振りながら声を上げた。
◇◇◇
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