終わる世界

海鼠さてらいと。

終わる世界


死。


あぁ、死。

死が俺を呼んでいる。

俺は冷たい鉄の柵に両手を掛け、下を見つめている。ここは10階建てビルの屋上。ここから落ちる事が出来れば、晴れて人生を完結させられる。


あぁ、そうだ。

もっと早くこの選択を執るべきだった。

「生きていればいいことがある」

この25年間、無責任な妄言を信じて無駄に苦行を重ねてきた。無駄に抗ってきた。

口の端から溜め息が漏れる。うんざりだ。息をするのも、心臓の鼓動を感じるのも、全部。全部。

どうしてこうなったんだろう。

あぁ、そうか。

俺は発達障害者として生を受けた。この時点で死ぬべきだったんだろう。もし他人がそうでも別に気にしないし、差別等しない。

ただ、俺が。俺という存在が発達障害という事実が許せない。気に入らない。

だから死ぬ。俺は俺を差別し続けているんだ。完璧とは程遠い自分を。何をしても他人の劣化にしかならない自分を。

自分のような劣等な人間が社会で上手くやっていける訳が無い。実際やれなかった。人並みを求めて死にものぐるいで頑張った結果、返ってきたのは鬱病であった。その鬱病さえも自分から甘えと言われ続け、心は壊れた。

発達障害が普通の人間とどう違うのか、俺は知らない。ただ「障害」と名付けられている以上、俺には些細な、しかし決定的な不具合がある。原因は脳か?心か?そんなのは分からないしどうでもいい。

鬱病を診断されてから2年、俺は心療内科に通い続けた。しかし効果は無かった。もしかしたら自分自身が効果に気づいてないのかもしれないけれど。毎週渡される薬に不信感を抱き始めたのは1年経ってからだった。

あぁ、もうどうでも良い。

俺は社会不適合者なのだろう。まともな人間が定めた画一化された社会とかいうシステムからはみ出した欠陥品だ。発達障害にADHDに加え、鬱病まで発症するとは。俺は前世で何か悪い事でもしたのだろうか。このままだと俺はろくな死に方をしない。だから、自分でこの命を終らせよう。自殺だけがこの欠陥だらけの人生をまともに完結させられるのだから。

俺の人生は自殺することで完成する·····いつしかその言葉は俺の生きる糧となっていた。仕事や人間関係でどんなミスをやっても、どうせいつか自殺するから大丈夫だと、俺の心を救ってくれた。俺はいつか死ぬ。死ななければならない。そしていつかは、今だ。


俺は風を切りながら、空へ落ちた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

終わる世界 海鼠さてらいと。 @namako3824

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ