第377話 今後の魔法学園と七影のその後

――屋上で騒動が起きている頃、学園長室ではマリアの元にバルルが訪れていた。バルルが部屋に入った時にはマリアは眼鏡をかけた状態で大量の書類を机の上に置いており、それを見たバルルは苦笑いを浮かべる。



「これはまた……大変そうだね先生」

「ええ、大変よ。遊ぶ暇もないぐらいよ」



深々と溜息を吐きながらマリアは書類を一枚差し出すと、それを受け取ったバルルは中身を確認する。書類の内容は入学希望者の資料が記されており、どうやらマリアの机の上に置かれた書類は最近に入った魔法学園の生徒と入学希望者に関する資料だと判明する。



「うわっ、何だいこりゃ……元々のうちの学校の生徒よりも多いじゃないかい」

「流石にこれだけの入学希望者が現れるとは思わなかったわ。わざわざ他国まで訪れに来るなんて……」

「それでどうするんだい?」

「どうするも何も試験を設けて厳選するしかないわね。流石にこれだけの数の生徒は管理しきれないわ」



マリアに魔法を学ぶために他国から訪れた魔術師や魔拳士は数多く、元々の魔法学園の全校生徒よりも数が多い入学希望者が現れた。この事はマリアも予想外であり、仕方なく入学希望者の資料に目を通して対策を考えていた。


いくら魔法を扱える才能を持つ人間が貴重だとしても、流石に王国の援助を受けているといっても魔法学園が世話をする生徒の数は限られている。魔法学園の財政は国からの援助金と王国貴族から支援、他にはマリアが創設した黄金の鷹のような組織クランからの資金で賄っている。


これまでは魔法学園の生徒数が100名にも満たないのでどうにか経営できていたが、元々の生徒数よりも多くの入学希望者が訪れた事で負担は大きく増す。しかし、魔法を才を持つ者達をわざわざ追い返す事もできず、マリアは試験を設けて入学希望者の厳選を行うのが背一杯だった。



「この調子で生徒が増え続けると教員の数も足りなくなるわ。場合によっては貴方も一般生徒の面倒を見てもらう事になるわね」

「それは仕方ないけどさ、あたしだって教師と宿屋の主人の仕事を両立してるんだよ?それに黄金の鷹の仕事まで手伝っているのにこれ以上に仕事が増えるのはね……」

「もうしばらくの辛抱よ。教員の募集を行っているけれど、魔法学園の教師として相応しい人間は見定める必要があるの。貴方の元担任のような人間を教師にさせるわけにはいかないわ」

「たくっ……マカセの奴、さっさと起きないかね」



現在のマカセは入院中であり、未だに目を覚ます様子はない。バルルは暇なときは見舞いに訪れているがマカセは一向に目を覚ます様子はなく、医者によると彼が次に目を覚ますのはいつになるのか分からないという。



「はあっ……それで七影の件はどうなったんだい?」

「未だに消息も掴めないわ」



最後の七影であるニノの行方は未だに見つからず、表向きは王国一の商人として働いていたネカだが、現在は商会も解散された。結局のところは前回の騒動を裏で操っていたのはリクでもなければ他の七影でもなく、全てがネカの掌の上で動かされていた。



「他に捕まえた七影から有力な情報は掴めないのかい?」

「尋問をしても何も情報を得られていないわ。裏切られても仲間の情報を売らないなんて意外と義理堅いのね」

「それは違うね先生、あいつらの間に絆なんてもんはないのさ。単純にあたしらの事が嫌いだから余計な情報を漏らさないだけさ」

「……なるほど」



既に拘束したワン、スリン、ゴーノの三名は未だに情報は吐かず、ネカの情報は聞き出せていない。彼等ならばネカに関する情報を何かしら知っているはずだが、意地でも口を割ろうとしない。


早々にこの三名は処刑するように申し立てる人間も多く、情報を吐かないのであれば生かす理由はない。しかし、マリアは処刑に反対して彼等を生かしているのは最後の七影であるネカの足取りを掴むためでもある。



「薬か何かで奴等の情報を吐かせられないのかい?」

「それはもう試したわ。だけど、薬の耐性も身に付けているのか全員が何も喋らなかったわ」

「何だいそりゃ……はあっ、捕まっても面倒な奴等だね」



薬を投与されてもワン達は何も話す事はなく、結局は彼等に仕えていた配下から情報を引き出して彼等が管理していた組織は壊滅した。しかし、重要な情報は三人しか知らず、いくら下っ端から情報を聞き出そうとしても限界はあった。



「当面の間は私は魔法学園の経営に専念するわ。貴女も生徒達の面倒を任せるわ」

「マオ達の事かい?」

「いいえ、学校内の生徒の事よ。新しく入学してきた生徒達とこれまで学園に在籍している生徒達の争いが日に日に増しているわ。貴女も教師なら生徒達が問題を起こさないように注意しなさい」

「う〜ん……別に今のままでいいんじゃないかい?」

「……どういう意味かしら?」



マリアの言葉にいつもならば素直に従うバルルだったが、今回は珍しく彼女の意見に反対した。

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