第376話 自惚れを捨てろ

「こ、こうなったら!!」

「おっ……何だそれ?」

「ふん、余裕をこいているのも今の内だぞ!!」



ガオはその場に屈むと右足に吐いていたブーツに魔石を装着させ、どうやら彼が入てえいたブーツは魔道具だと判明する。装着した魔石の色合いは風属性の魔石だとバルトは見抜き、流石に彼も杖を構えた。



(こいつは警戒する必要があるな……まあ、一発で十分だな)



バルトはガオと向き合うと、相手の行動を観察しながら待ち続ける。そんなバルトに対してガオは笑みを浮かべ、ゆっくりと違づいて間合いを詰める。その様子をマオとミイナも眺めていた。



「先輩……大丈夫かな」

「大丈夫、あの程度の相手に負けるはずがない」



マオはバルトの事を心配するが、ミイナの方は特に心配した様子もなく眠たそうに欠伸まで行う。そんな二人の態度に気付かずにガオは距離を詰め、そして力強く右足を踏みつけた。



「喰らえっ!!」

「っ!!」



ガオが右足のブーツを地面に踏みつけた瞬間、風属性の魔石が光り輝いて強烈な風圧が発生した。足の裏からまるでジェット噴射の如く強風が吹き溢れ、それを利用してガオはバルトの顔面を蹴りつけようとした。


しかし、ガオの行動を先読みしていたバルトは彼がブーツを踏みつける寸前に頭を下げると、彼の頭上にガオの右足が通過する。まさか自分の攻撃が避けられるとは思わなかったガオは唖然とするが、そんなガオに対してバルトは杖を振り払う。



「狙いが見え見えなんだよ、馬鹿!!」

「うわぁあああっ!?」



バルトは杖を振り払った瞬間に無詠唱で彼は「スラッシュ」を発動させ、杖から放たれた風の刃がガオを吹き飛ばす。威力は事前に調整していたのでガオは闘技台から弾き飛ばされるだけで済んだが、その気になればバルトはガオの肉体を真っ二つに切断する事もできた。


ガオが闘技台が落ちる光景を見届けてバルトは頭を押さえ、髪が無事である事を確認すると安心した。もしも反応が遅ければバルトは顔面を蹴りつけられて下手をしたら大怪我を負っていた。



「ふうっ……たくっ、面倒を駆けさせやがって」

「う、ううっ……」

「す、凄い……今の見たかよ!?」

「信じられない、あの攻撃を躱すなんて!!」

「あ、あれが噂のバルト先輩なのか……月の徽章を持つ生徒はやっぱり只者じゃないな」



バルトの勇姿に屋上に存在した生徒達は圧倒され、中には尊敬の念を込めた視線を送る生徒も多い。一方で闘技台から叩き落されたガオは苦痛の表情を浮かべながら起き上がる。



「う、嘘だ……俺が人間なんかに負けるなんて」

「おっ、まだ元気そうだな。だけどこれで分かっただろ?お前は俺より弱いんだ」

「うぐっ……」



闘技台の上からバルトはガオを見下ろし、彼は悔し気な表情を浮かべるが言い返す事はできなかった。だが、どうしても彼はバルトが自分の攻撃を躱した理由を知りたくて尋ねた。



「な、何で分かったんだ……俺が蹴りを繰り出す事を」

「そんなもんお前……」

「顔と視線で狙いがバレバレ」

「うわっ!?」



バルトが答える前に何時の間にかガオの背後に立っていたミイナが答え、いきなり話に割り込んできたミイナに対してガオは焦った表情を浮かべるが、そんな彼にミイナは理由を答える。



「そのブーツに風属性の魔石を装着した時点で右足で攻撃を仕掛ける事は簡単に予想できる。しかも攻撃の前にあんなふうに足を強く踏みつけたら相手に攻撃を避ける隙を与える……そんな事も知らずに戦ってたの?」

「そ、それは……」



ミイナの指摘にガオは言い返す事ができず、まさかブーツに魔石を嵌めた時点で自分の攻撃と狙いが気づかれていた事に衝撃を受ける。しかし、そんなガオに対してバルトは淡々と告げた。



「言っておくがお前程度の力を持つ生徒ならこの学園にはごまんといる。それを忘れるなよ」

「そ、そんなはずはない!!だって俺は村で一番強かったんだぞ!?」

「それがどうした?お前が何処から来たのは知らねえよ、言っておくが俺よりも強くてお前よりも年下の生徒もいるんだぞ」

「えっ……!?」



ガオはバルトの言葉を聞いて信じられない表情を浮かべるが、そんな彼にバルトはマオの方へ振り返る。距離的に遠くて話が聞こえなかったマオは急にバルトに顔を見られて戸惑うが、そんな彼の態度を見てバルトは笑う。



「精進しろよ、クソガキ。まずは目上の人間には敬語を使う事から覚えろ」

「…………」

「そうそう、再戦リベンジがしたいならいくらでも相手になってやるぜ?」



バルトは最後にガオの頭に手を乗せ、ミイナと共にマオの元へ立ち去る。そんな彼の後ろ姿をガオは見送る事しかできず、彼は自分が井の中の蛙である事を思い知らされた――

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