第378話 競争心

「生徒同士が仲が悪いのはまずいのは分かるよ。だけど、あたしは生徒同士の競争心も必要なんじゃないかと思うんだよ」

「競争心……」

「これまでに学園に通っていた生徒は新しく入学してきた奴等を警戒している。反対に新しく入学した生徒達は先に入学していた連中に対抗心を抱いている。先生の言う通りに近いうちに新しい奴等の派閥と前からいる生徒の派閥ができるかもしれない。けどね、別にあたしはそれでいいと思うよ」

「どういう事かしら?」



マリアはバルルの言葉の真意を尋ねると、彼女はどのように説明すればいいのかと真面目に考えながら話す。



「要するに生徒同士で競争させるのさ。これまでのうちの学校は生徒同士が争う事は滅多になかったからね。せいぜい月の徽章を持つ生徒にやっかみを覚える連中はいたけど、そういう奴等も結局は心の何処かで月の徽章を持つ奴等には勝てないと思っていた」

「それは……そうかもしれないわね」



月の徽章を持つマオも以前に一般生徒から一時期妬まれていた事がある。魔力量の少ない彼が月の徽章を持つ事に不満を抱く生徒も少なからず存在したが、結局のところはその生徒達もマオに嫌がらせをする程度で彼に真っ向から対抗する者は殆どいなかった。


バルルからすればマオに嫌がらせをしていた生徒達は彼の事を嫌いながらも、正面から挑む事をしなかったのは心の何処かでマオの事を恐れていたからだと語る。相手の事を嫌いながらも心の内では実力を認めており、自分の力が及ばない存在だと自覚していた。そのため嫌がらせ程度に収まり、結局はマオに直接手をかける事はしなかった。



「月の徽章を持つ生徒は学園長である先生に認められた存在だからね。だから他の生徒達から欲も悪くも注目されていた。そのせいで月の徽章を持つ生徒は特別な存在だと考えて対抗心を抱く生徒もいなかった。いや、抱けなかった」

「対抗心を抱けなかった?」

「要するに普通の生徒達からすれば月の徽章を持つ生徒は目標には成り得なかったのさ。まあ、バルトのように負けん気が強くて努力家の奴なら別だけど、普通の生徒は月の徽章を目指そうなんて考える奴はほとんどいないよ。あいつらにとっては月の徽章は「天才の証」だからね」

「天才の証……」

「自分はである事を自覚している連中ほど身の丈を弁えるのさ。どんなに頑張ったとしても自分は天才にはなれない、いくら頑張ろうと無駄なんじゃないか、そんな風に考える奴は必ずいる」

「……そんな風に考える人間には私は月の徽章を渡す事はできないわね」



バルルの発言にマリアはため息を吐き出し、そんな彼女に対して慌ててバルルは言葉を続けた。



「別に先生のやり方に文句を言ってるんじゃないよ!!あたしだって月の徽章の制度に問題があるとは思っていないさ、だけど今までのやり方だけじゃ足りないと思うんだ」

「足りない?」

「そうさ、要するに今までの生徒の奴等に足りなかったのは他人に対しての競争心さ。勿論、これまでだって同世代の生徒を相手に対抗心を抱いて腕を磨こうとする奴等はいた。だけど、中には学年を昇級できるだけの評価だけを集めて過ごそうとする連中もいた」



魔法学園では年内に一定の評価を得なければ留年、あるいは退学を言い渡される。学年を上がる事に必要な評価は増していき、そのために生徒達は勉学に励む。しかし、年内に十分な評価を得た生徒の大半は勉学の意欲を損なう。



「学年を上がれるだけの評価を得たら後は成績を落とさない程度の勉強で済ませる生徒はいくらでもいたよ。それは先生も気づいていただろ?」

「そうね、嘆かわしい事だけど確かに心当たりがあるわ。私としては精進を怠らずに頑張って欲しいのだけど……」

「勿論、あたしも同感さ。だけど生徒達にとっては評価を得るまで頑張ったんだからそれでいいだろと思う奴もいるわけさ……けど、今は状況が変わった」

「なるほど、貴女の言いたい事は何となく分かったわ」



バルルの伝えたい内容を理解したマリアは笑みを浮かべ、彼女にしては珍しく良案を思いついたと感心する。要するにバルルが言いたかったことは今までの魔法学園の生徒は生徒同士の間の競争心が薄く、そのせいで勉学に励む者は一部の人間しかいなかった。しかし、新しく入学してきた生徒達の登場で事態は変わる。


現在の魔法学園の生徒達は既存の生徒と新しく入学した生徒達の間で派閥争いが起きており、お互いに対抗心を抱いていた。既に学園に通っていた生徒達は新参者の生徒に負けたくはないと思い、一方で新しく入学してきた生徒達も先に魔法学園に入学しているという理由だけで偉そうにする生徒達に対抗心を抱き、お互いに負けないための努力を欠かさない。


結果から言えば魔法学園の生徒達は自主的に訓練に励むようになり、その証拠としてこれまでマオ達が独占していた訓練場も現在は一般生徒が殺到して順番待ちになるぐらいである。生徒同士が争えば問題事も多くなるかもしれないが、一方で生徒達が互いに切磋琢磨する事で着実に生徒達の魔法の腕は磨かれていく。そのように考えると今の状況も決して悪いとは言い切れない。




※次回最終話!!

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