第375話 先輩として

「おい、止めろ!!何を騒いでるんだ!!」

「あ、バルト先輩……」

「ああっ!?何だてめえ!!邪魔するならお前からぶっとばすぞ!!」



仲裁に入ったバルトに対して彼の事を知っている人間の生徒は慌てるが、新しく入学してきた獣人族の生徒はバルトに対して臆さずに怒鳴り返す。周囲の生徒も何事かと視線を向けると、バルトは面倒そうな表情を浮かべながらも話しかける。



「おい、俺は先輩だぞ。敬語ぐらいは使えよ」

「うるせえ!!先輩だからって偉そうにするんじゃねえっ!!」

「お、おい!!お前、この人を誰だと思って……」

「知るかよ!!」

「はっ、随分と威勢がいいガキだな」



最近に入学したばかりの生徒はバルトの事を知らず、彼に対して突っかかる。そんな生徒に対してバルトは懐かしい思いを抱き、最近では自分に絡んでくる生徒などいなかったので少しだけ嬉しく思う。



「すいません先輩!!この馬鹿は先輩の事を知らなくて……」

「誰が馬鹿だ!!先輩だか何だか知らねえが偉そうにするんじゃねえっ!!」

「別に俺は気にしないよ。だけどな、お前みたいな奴を見ていると放っておけないんだよ。

「な、何だと……どういう意味だ!?」



バルトは獣人族の生徒を相手にしていて思った事は過去の自分の事だった。昔の彼も今の獣人族の生徒のように先輩が相手であろうと強気な態度を貫いてきた。しかし、リオンとの出会いで彼は思い知らされる。自分よりも才能がある人間がいる事、決して自分だけが「天才」ではない事を知る。


獣人族の生徒を見ていてバルトはの事を思い出し、そんな彼だからこそ放っておく事はできなかった。バルトは生徒に対して杖を抜くと、近くの闘技台を指差す。



「後輩、そんなに俺の態度が偉そうだというなら相手になってやるよ。お前が俺に勝てたら奴隷でもなんでもなってやるぜ」

「何!?」

「せ、先輩!?急に何を言い出すんですか!?」

「お前は黙ってろ、俺はこの世間知らずのガキと話してるんだ」

「ガ、ガキだと!?てめえっ……俺をガキだと言ったな!!」



獣人族の生徒はバルトの言葉に激高して彼の服を掴みかかるが、それを後ろに下がって躱すとバルトは生徒の顔面に杖を突きつける。



「おっと、喧嘩をするつもりはねえ。俺は試合をしたいと言ってるだけだ」

「ひっ!?」



杖を顔面に突きつけられた獣人族の生徒は顔色を変え、慌ててバルトから距離を取った。もしもバルトがその気ならば顔面に魔法を当てる事もできた。しかし、彼はあくまでも試合する事を望む。



「上がって来いよ、お前に覚悟があるのならな」

「ちょ、調子に乗りやがって……さっきの言葉、忘れるなよ!!」

「ああ、約束だ。但し、俺が買ったらお前はこれから上級生には敬語を使えよ」

「このっ……!!」



闘技台の上に移動したバルトと獣人族の生徒は向かい合い、この時にバルトは相手の生徒の名前を知らない事を思い出す。



「そういえばお前、名前は?」

「ガオだ!!」

「ガオね……まあ、どうでもいいわ。どうせすぐに忘れると思うし」

「こ、このっ……ぶっ殺す!!」



ガオと名乗った獣人族の生徒に対してバルトは小馬鹿にするような態度で接すると、そんな彼に対してガオは激しく憤る。試合開始の合図を待たずにガオは仕掛けた。



「死ねっ!!」

「おっと、危ない」

「うわっ!?」



飛び掛かってきたガオに対してバルトは冷静に横に移動すると、飛び込んできたガオの足元を引っかける。危うくガオは転倒しそうになったが、獣人族の持ち前の身軽さを生かして地面に両手をついて素早い動作で体勢を整える。


あっさりと自分に足払いを仕掛けてきたバルトに対してガオは驚愕の表情を浮かべ、一方でバルトの方は余裕の表情を浮かべる。実を言えば彼は普段からマオとミイナと訓練しているため、獣人族であるミイナとの試合の際に獣人族がどのように動くのかを把握していた。



「どうした?もう終わりか?」

「く、くそっ!!人間如きがっ!!」

「まずはその人間を見下す事を止めろ、そんなんじゃ強くなれないぞ」

「うるさい!!」



ガオはバルトに対して殴り掛かり、何度も拳を振りかざす。それに対してバルトは後ろに下がりながら拳を交わし、相手がどのように動くのかを先読みして攻撃を躱す。



(こいつ、ミイナと比べると遅いな。まあ、力はありそうだけどな)



ミイナと比べたらガオの動きはあまりにも遅く、攻撃の動作を読みやすくて躱しやすい。その一方でガオは人間の癖に自分の動きを見抜いて攻撃を巧みに躱し続けるバルトに信じられない表情を抱き、何が起きているのか理解できなかった。



「そ、そんな馬鹿な!?お前、人間じゃないのか!?」

「人間に決まってんだろ、言っておくが俺の家系には獣人族はいないぞ」

「う、嘘だ!!」



悉く自分の攻撃を躱すバルトにガオは信じられず、ただの人間に自分の攻撃がかわされているなど認めたくはないガオは装備品を取り出す。

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