第374話 盗賊ギルドの壊滅

――魔法学園と王都各地で起きた事件から一か月後、王都の人々は平穏な時を過ごしていた。盗賊ギルドはは壊滅し、王国の脅威は一掃されたと考える人間も多い。


民衆には王都で起きた事件は盗賊ギルドの仕業だと教えられ、獣牙団の傭兵は全員が拘束された。彼等は他国の犯罪者であるため、獣人国との友好関係のために捕らえた獣牙団は獣人国の元へ送り返す。


獣牙団の団長であるコウガは黄金級冒険者のライゴウを殺害した罪により、彼だけは始末するべきだという声もあった。実際に冒険者ギルドも王国側に彼の処刑を求めたが、結局のところは獣人国との関係を保つために彼も含めて獣牙団の傭兵達は獣人国に任せる事が決まった。




しかし、獣牙団を送り込む際にコウガは獄中でとして発見された。死体を調べた結果、毒を飲んで死んでいた事が発覚したが、自害にしては奇妙な点が多い事が判明した。まずは毒物の正体が掴めず、そもそもコウガは自殺するような性格ではない。


捕まった後のコウガは尋問の際に驚くほどに情報を明かした。自分は盗賊ギルドと組んでいた事、七影の指示で動いていた事を包み隠さずに話す。彼にとっては盗賊ギルドなど利用するだけの存在であり、決して恩義を感じてはいなかった。


コウガが率いる獣牙団を裏で操っていたのは七影のリクだが、実際の所は支援を行っていたのネカと呼ばれる商人だと判明する。しかし、ネカという人物は事件の日に失踪し、現在も行方はつかめない。


王国の人間はコウガが死んだのはネカと名乗る本名は「ニノ」という名前の七影の仕業ではないかと考えた。七影は三年前にシチが死亡し、リクとブラクも一か月前の事件が起きた際に死亡は確認されていた。リクの死体に関しては何故か魔法学園ので発見された。




リクの死体は彼が描いたと思われる魔法陣の上に横たわった状態で倒れていた。恐らくは自害したと思われるが、どうしてリクが逃げずに自害したのか理由が分からず、今尚も調査が行われている。


拘束したワン、スリン、ゴーノの三名に関しては監獄に送り込まれたが、今尚も盗賊ギルドの情報を吐いていない。しかも彼等の配下の内に大人数が既に姿を消していた。


恐らくは行方不明のニノが他の七影に所属していた者達を集めてまとめ上げ、新たなる組織を立ち上げようとしている事は間違いない。七影の中で唯一に逃げ延びたニノを警戒し、王国は彼の行方を追う。





盗賊ギルドは壊滅して七影の内の六人の脅威は消えた。残されたのはニノだけだが、いくら七影の一角と言っても彼一人では盗賊ギルドの再建は不可能だと思われた。王国の最大の脅威は消え去り、今回の功績は魔法学園の学園長のマリアであると判断して国王は彼女を褒め称えた。


今回の騒動で獣牙団と盗賊ギルドという脅威を排除したマリアは一目置かれ、彼女の名前は王国どころか全ての国々に広まる。そんな彼女の噂を聞いて王国だけではなく、他国からも彼女の元で教えを受けたいという魔術師が集まり始めた。そのお陰で魔法学園の入学希望者が増え始め、人間以外の他種族の生徒も一気に増えた。




事件解決してから一か月後には他国から訪れた生徒も入学し、その中には高い魔法の才能を持つ者も多く含まれていた。そんな彼等に対して既存の生徒達は焦りを抱き始め、新しく入学した生徒達に後れを取るまいと魔法の腕を磨く事に専念する。



「……なんか一気に生徒が増えたね」

「急に増えたせいで教室の数が足りないとバルルがぼやいていた」

「たくっ、とんでもない事になったな」



事件から一か月後、マオ達は校舎の屋上に集まっていた。屋上の訓練場にはマオ達以外にも大勢の生徒の姿があり、そんな彼等を見てバルトは面倒そうにぼやく



「生徒が増えすぎたせいで何処の訓練場もいっぱいいっぱいだ。この調子だと俺達が訓練する時間も減っちまうな」

「まあまあ……」

「少し前までは私達専用だったのに」



屋上の訓練場は一か月前まではマオ達ぐらいしか利用していなかったが、現在は他国から訪れた生徒達が訪れるようになり、訓練場の使用も順番待ちになってしまった。そのせいでこれまで通りに訓練ができなくなった事にバルトとミイナは不満を抱く。


マオは屋上に集まった生徒達に視線を向け、他国から訪れた生徒全員が他種族だった。当然と言えば当然の話であり、国内の魔術師の才能を持ち合わせる人間は国側が勧誘するはずなので人間の生徒は加入していない。そのせいで対抗心を抱く生徒も多い。



「おい、退けよ犬っころ!!」

「犬っころだと!?それは俺の事を言ってるのか!?」

「そうに決まってんだろ!!後から入ってきた癖に偉そうにしやがって!!」

「この野郎!!貧弱な人間の癖に偉そうな口を叩くな!!」

「たくっ……またかよ」



獣人族と人間の生徒が喧嘩を始め、その様子を見ていたバルトは面倒そうな表情を浮かべながらも立ち上がる。そして彼等の元へ向かって怒鳴りつけた。

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