第357話 怨霊
「――これはいったいどういう事かしら?」
風の精霊を通してマリアは魔法学園の様子を伺っていたが、突如として校舎内の様子が確かめられなくなった事に疑問を抱く。彼女は先ほどまで校内の人間の様子を伺う事ができたが、何故か送り込んだはずの風の精霊との繋がりが消えてしまった。
精霊を通して校舎内の様子を調べていたマリアだが、まるで校内に送り込んだ精霊が消えてしまったかのように感じなくなった。しかも精霊だけではなく、先ほどまで感じ取れたはずのバルル達の魔力まで消えてしまう。
(この私が魔力が感知できないなんて……まさか、やられたとは考えにくいけど)
校内に滞在する人間の魔力が感じ取れなくなった事にマリアは眉をしかめ、珍しく彼女は焦りを抱く。魔力を感じ取れない以上はバルル達の正確な位置は探れず、それどころか彼女達が無事なのかどうかも分からない。
魔術師や魔拳士であるバルル達は普通の人間とは違い、生まれながらに強い魔力を持っている。吸魔腕輪などで魔力を奪われている状態だとしても全くの魔力を感じ取れないはずはない。
(……何が起きているというの?)
校内の人間の魔力が感じ取れなくなった理由、その真の理由は他の魔力に阻害されて校内の人間の魔力を感じ取れなくなったという表現が正しい。先ほどまでは校内にはバルル達以外の魔力は感知できなかったはずだが、現在は校舎全体に嫌な魔力が漂っている。
(この魔力の質は闇属性ね。だけど、校舎全体を覆いつくせる程の魔力なんて普通なら有り得ないわ)
屋上の扉にマリアは視線を向けると、よくよく観察すると扉の隙間から黒霧が滲み出ていた。マリアは扉に近付こうとすると黒霧がさらに噴出され、まるで彼女を中に通さないとばかりに黒色の腕が無数に出現した。
「これは……
扉から出てきた無数の黒腕を確認してマリアは驚きの声を上げ、彼女は一目見ただけで学校内の状況を理解した。彼女の告げる「怨霊」とは魔物とは異なる類の怪異である。
人間のように強い意思を持つ存在が死んだ場合、極稀に死んだ後に魂が浄化されずに闇に囚われてしまう存在がいるとされる。特に闇属性の魔術師の場合は普段から闇の魔力を多用しているため、肉体が死んでも意識が残る場合が多い。
意識だけが残っていても肉体その物は死んでいるため時間が経過すれば自然と消滅するが、暗闇や夜などの時間帯は闇属性の精霊が発生するため、それらを取り込む事で残された意識は
怨霊は生者が放つ生命力に引き寄せられ、彼等から生命力を奪う事で消えかけた意識を保とうとする。厄介な事に怨霊に触れると生命力(魔力もこれに含まれる)を奪われ、最悪の場合は全身の生気を吸い取られてミイラのように化して死ぬ。そのために怨霊が現れた場合は聖属性の魔法で対処しなければならない。
(校舎内に蔓延している魔力の正体は怨霊だとしたら……規模が大き過ぎる。私の魔法でも浄化には時間が掛かり過ぎる)
校舎全体に広がった怨霊の魔力を感知したマリアは即座にこれ以上に校舎内に誰も近づかないように対処を行う必要があった。彼女は口元に指先を向けると、風の精霊を利用して校舎の近くにいる人間に自分の言葉を風に乗せて伝える。
『校舎に近付いては駄目よ!!校舎内に入る事は禁止とします!!生徒はすぐに校庭に集まりなさい!!』
マリアは風の精霊を通して校舎の近くの生徒達に避難誘導を行うと、校舎に向かおうとしていた生徒達は驚く。突如としてマリアの声が聞こえてきたので中には周囲を見渡して彼女を探す生徒もいたが、学校の屋上にいる彼女は見つからない。
『これで校舎に近付く事はないわね……今日が満月だった事が幸いしたわ』
怨霊は校舎の外に出てこれない理由は今宵が満月であるため、怨霊は闇属性の魔力で構成されているため、光が放たれる場所には近づけない。満月の光で照らされている間は校舎の外側に居る人間の安全は守られる。
しかし、既に校舎内に入り込んだ人間は常に怨霊の危機に晒され、すぐに助け出さなければならない事は理解しているが、マリアの魔力感知を以てしても正確な位置は把握できない。しかも厄介な事に校舎の構造のせいでマリアは外部から魔法で援護を行う事も難しい。
「校舎を少し頑丈に作り過ぎたわね……困った事になったわ」
前回の魔物の襲撃の一件からマリアは校舎の大規模な改築を行い、外部からの侵入に備えて頑丈な造りにしてしまった。全ての窓や扉は外部からの衝撃や魔法攻撃に強い素材に構成されているため、簡単に中に入る事はできない。
建物の中に閉じ込もった怨霊を浄化するためにはマリアも大規模な魔法を使う必要があるのだが、入り組んだ構造の建物内に存在する怨霊を同時に浄化する術は持ち合わせていない。せめて怨霊が屋内ではなく、屋外に存在したらマリアの魔法で一網打尽にできるのだが、生憎と建物の中ではマリアも魔法の力を存分に扱えない。
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