第355話 避難誘導

「――おら、もたもたしてんじゃねえぞ!!さっさと校舎に避難しろ!!」

「は、はい!!」

「たく、今度は何なんだよ……」

「こんな時間に避難訓練なんて聞いてないぞ……」



マオとバルトは男子寮に戻ると生徒達を校舎内に避難するように誘導する。生徒達はミノタウロスの一件で全員が目を覚ましており、男子寮から校舎へ移動を促す。



「おら、寝ぼけてるんじゃねえぞ!!またさっきの化物が現れるかもしれないんだぞ!!」

「化物!?」

「あんなのがまた来るんですか!?」

「それが分からねえから校舎に避難するんだろうが!!」

「けど、校舎だって安全とは限らないんじゃ……」



かつて魔法学園は校舎内に魔物の侵入を許し、大混乱を引き起こした事を覚えている生徒も多かった。しかし、前回の騒動を反省して魔法学園の校舎は大幅な改築工事が行われ、現在は簡単に外部の侵入者が入り込めないように造り替えられていた。



「ここに残るよりは校舎の方がまだ安心だ!!前と違って校舎も頑丈だからな、さっきの化物と同じ奴が現れても簡単には入り込めないようになってんだよ!!」

「でも、逆に言えば……もしも校舎内に魔物が忍び込んだら僕達も逃げ場を失うんですよね」

「……それは言わない約束だろ」



不安がる生徒達にバルトは校舎の安全性を説くが、隣に立っているマオの呟きに彼も難しい表情を浮かべる。確かに前よりも校舎の構造は外部からの侵入を防ぎやすいようになっているが、逆に言えば中にいる人間も危険リスクを伴う。


校舎と外に繋がる扉も窓も魔物が入り込もうとしても以前のように簡単に壊されない仕組みになっているが、もしも校内に侵入を許せば中の人間が逃げ場を失う。それでも学生寮よりは頑丈性や耐久性に優れている事から生徒達を校舎内に避難させるのは最善の一手だった。



「マオ、ここは俺に任せろ。お前は先に校舎に戻って様子を調べてこい」

「様子?」

「まだ校内にやばい奴等が残っているかもしれないって事だ。まあ、バルル先生やリンダも先に校舎の中を調べているだろうから安全だとは思うが……気をつけろよ」

「……分かりました」



男子寮の生徒の誘導はバルトに任せ、マオは先に校舎の様子を調べる事にした。誘導の際中にかなりの生徒が校舎に送り込んだはずだが、彼等が校舎に入る前にマオは校舎の様子を調べるために急ぐ。



「先輩、ここはお願いします!!」

「ああ……ちょっと待て!!お前、魔石が壊れたんだろ?これを貸してやるよ」

「えっ?」



立ち去り際にバルトはマオに自分の杖に装着していた風の魔石を取り外し、彼に目掛けて放り込む。慌ててマオは魔石を受け取ったが、この魔石を受け取るという事はバルトが魔法を使う時に魔石の強化ができない事を意味する。



「先輩!?これ、大丈夫なんですか?」

「ああ、俺の部屋に予備の魔石があるから気にすんな!!ほら、さっさと行け!!俺は寝坊助どもを連れて後から行くから!!」

「はい!!ありがとうございます!!」



バルトに礼を告げてマオは受け取った風の魔石を三又の杖に装着し、万全の状態に戻ったマオは氷板スノボを作り出して移動を行う。足元に板状の氷を作り出して校舎に向かうマオを見て他の生徒は驚く。



「うおっ!?な、何だよ!?」

「おい、ずるいぞ!!お前だけ空を飛びやがって……」

「俺も後ろに乗せてくれよ〜!!」

「すいません、急いでるんで!!」



男子生徒達の声を耳にしながらもマオは一足先に校舎へと向かい、この時に彼は空を見上げた。まだ夜明けまでは時間があるが、恐らくは1時間ほどで太陽が昇る。


今の所は魔法学園に王都の警備兵や冒険者が駆けつける様子はなく、その事にマオは不思議に思う。確かに城下町の方でも獣牙団が騒動を引き起こしたと聞いているが、だからといって魔法学園に全くと言っていいほど人が集まらない事に違和感を抱く。



(どうして誰も来ないんだろう?魔法学園は国が管理する施設なんだから兵士ぐらい来てもおかしくはないのに……)



魔法学園は国が設立した施設であるため、本来ならば警備兵が駆けつけて来てもおかしくはない。だが、未だに兵士の一人も出てこない事にマオは疑問を抱くが、今は校舎へと急ぐ。



(学園長も戻ってきてるはずだけど……)



マオは意識を集中させると校舎の屋上の方に学園長の魔力を感知する。この国一番の魔術師であるマリアの魔力は感じ取りやすく、既に彼女が学園に戻ってきている事は把握していた。それは他の人間も同じのはずであり、魔力感知が得意な人間ならばマリアの帰還には気づいている。


既に魔法学園にマリアが戻っているとしたら心配する事は何もなく、彼女がここにいれば盗賊ギルドも迂闊に手を出せない。それは重々理解しているのだが、マオは先ほどから妙な胸騒ぎがした。



(何だろう、この嫌な感じ……)



ミノタウロスやコウガという圧倒的な強者との激闘を制したマオだったが、何故か心の不安は消えなかった――

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