第352話 盗賊ギルドの黒幕

――時は遡り、ネカがリクと別れた後に彼は早々に魔法学園を立ち去った。彼がリクと立てた計画は魔法学園内に存在するはずのミイナを誘拐し、彼女を人質にしてマリアを誘き寄せて暗殺するのが計画だった。しかし、この計画の途中でリクはマオもついでに殺すつもりでいた。


ネカとしてはマオの命をわざわざ狙うのは危険リスクが大きく、下手をすれば彼の存在が計画を破綻しかねないとリクを止めようとした。しかし、リクは聞き入れずにミノタウロスを用意してマオを殺す準備を整える。この時点でネカはリクという男を見限った。


盗賊ギルドにとっての最大の脅威はマリアであり、そのマリアを暗殺するための計画だからこそネカはリクに協力した。だが、リクの本当の目的はマリアではなくマオである事を知った彼はシナと連絡を取り合い、彼を殺すようにシナに指示を出す。




スリンが偽物と入れ替わってワンとゴーノを拘束しようとマリアが動いている事もネカは事前に把握した。理由としては彼がコウガの頼みで娼館の女を用意させようとした時、娼館の中に潜り込ませた自分の配下からスリンの様子がおかしいと聞いた。最近の彼女は何故か非道な手段を行わず、頻繁にワンとゴーノと連絡を取り合っていると知ったからである。スリンの行動に疑問を抱いたネカは詳しく調査させた所、彼女が別人と入れ替わっている可能性が高い事を知る。


ワンとゴーノが最近になって怪しい動きをしている事を知っていたネカは全てを察し、偽物と入れ替わったスリンが彼等を利用して何かしようとしている事に気付く。そして偽物のスリンを送り込む人物などマリア以外に存在せず、ネカは敢えてワンとゴーノには何も知らせなかった。




万が一の保険としてネカは自分の屋敷に大量の結界石を配置し、もしもマリアが乗り込んできた場合は足止めのために屋敷に細工を施す。仮にマリアが乗り込んでも屋敷の結界石が作動すれば脱出はできず、その間にネカは十分に身を隠す余裕はあった。


無論、今回の一件でネカという名前の商人は盗賊ギルドの一員であった事が世間に広まり、もうネカは表の世界では生きられない。だからこそ彼は全てが終わった後に顔と名前を変える必要があるがそれはさほど大きな問題ではない。



「ネカ様……シナから連絡が届きました、リクの始末に成功したそうです」

「そうか……屋敷の方はどうだ?」

「外から見た限りでは結界はまだ作動しているようです」

「ふむ、それは都合がいいな」



リクが死んだと聞いてもネカは動じず、彼とはそれなりに長い付き合いだったがネカにとってはどうでもよかった。リクが私情を挟まなければ彼を生かしても良かったが、ネカとしては盗賊ギルドに不利益を生み出す存在ならば長年幹部を務めた人材であろうと容赦なく始末するべきだと考えていた。



「ネカ様、から連絡が届いています」

「ほう、もう来たか。流石に耳が早いな」



ネカは部下からの報告から手紙を受け取り。差出人の名前は書かれていないがネカは誰が書いたのか想像はできた。手紙の主は盗賊ギルドの支援者でもあり、この国の支配を企む大物だった。



「ふむ、今回の一連の出来事の説明を求めているようだな」

「どうされますか?」

「無視するわけにもいかない。今後、盗賊ギルドの運営のためにはあの御方の協力は必要だ」

「し、しかし……今動かれるのは危険なのでは?」

「大丈夫だ、むしろここに残るよりもあの御方の傍に居る方が安全だ。マリアでもあの御方の元に足を踏み入れる事はできないからな」



魔法学園の学園長にして国王からの信頼も厚いマリアだが、彼女でさえも手が出せない存在の元にネカは赴く準備を行う――






――同時刻、王城の一室にて一人の女性が外の様子を眺めていた。彼女の手元には血のように赤いワイングラスが握られており、城下町から上がる煙を見て笑みを浮かべる。



「人というのは本当に愚かな生き物ね……だからこそ面白い」



女性はワイングラスを口元に傾けながらこれからの出来事を想像して笑いが止まらなかった――

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