第353話 結界の破壊

――ネカの屋敷にて多重結界に閉じ込められたマリアはマオの魔法を模倣し、次々と結界石を氷の刃で破壊する。彼女は鉄柵に取り付けられた結界石を全て破壊すると、最後に屋敷全体を覆い込む結界の破壊を行う。



「エルマ、下がっていなさい」

「は、はい!!」



エルマを自分から離れさせるとマリアは杖を頭上に構え、彼女の周囲に氷刃が集まる。マオの物と比べても圧倒的な大きさを誇り、彼女は作り出した氷刃を上空に移動させた。


高速回転しながら氷刃は上昇すると最後の結界に衝突した。その結果、結界は崩壊して屋敷全体を覆っていた障壁が粉々に砕け散って消え去る。それを確認したマリアは杖を降ろすと、流石に疲れた様子で頭を抑える。



「少し手こずったわね」

「マリア様!!大丈夫ですか!?」

「ええ、問題ないわ。それよりも学園へ戻るわ」

「学園に?」

「私の肩を掴みなさい」



マリアは多少疲れを感じながらも魔法学園を心配し、彼女は杖を地面に突き刺す。すると突き刺した杖から風の魔力が放たれ、マリアの足元の地面を抉り取って魔法陣を作り上げる。


地面に刻まれた魔法陣の上に立ったマリアは更に杖に取り付けられたを利用し、この世界において扱える人間は10人にも満たないと呼ばれる高等魔法を発動させた。



転移テレポート!!」

「きゃっ!?」



魔法陣が光り輝くとマリアと彼女の肩を掴んでいたエルマの身体が光に包まれ、屋敷内に光の柱が誕生した――






――マリアが転移魔法を発動させた瞬間、魔法学園の敷地内にも異変が発生した。校舎内に存在する中庭にはマリアが刻んだ物と同じ魔法陣が刻まれており、魔法陣が光り輝くと上空から光の柱が下りてきた。


空から降りてきた光の柱が魔法陣に衝突すると、光は魔法陣に吸収されるように消え去り、やがて光の柱が消えるとそこにはマリアとエルマが立っていた。彼女達は一瞬にしてネカの屋敷から校舎内に転移を行い、エルマは何が起きたのか理解できずに戸惑う。



「こ、ここは!?」

「校舎の中庭よ。貴女も学生の時はよくここへ来ていたでしょう?」

「中庭……と言う事はここは魔法学園なのですか!?」



一瞬にして自分達が魔法学園に戻ってきた事にエルマは信じられず、彼女は転移魔法の存在は知っていたがまさかマリアが扱えるとは知らなかった。この魔法に関してはマリアも滅多な事では使わず、一度使用すると場所や距離に関係なく貴重な魔石を一つ消費してしまう。



「この聖属性の魔石は使えなくなったわね……まあいいわ、それよりも生徒達の安全を確かめましょう」

「は、はい!!」

「貴女は女子寮の方をお願い。私は屋上から様子を確かめるわ」

「分かりました!!」



エルマは指示通りに駆け出すとマリアは風の魔術痕を発動させ、屋上へと移動を行う。この時に彼女は校舎の上空へ浮上し、屋上内に事を確認すると降り立つ。



「……何かしら、妙な気配を感じるわね」



屋上に降り立った途端にマリアは眉をしかめ、先ほどまで誰かが居たような痕跡を確認した。しかし、今は学校内の人間の安全を確保するために彼女は魔法を発動させる。


杖を手放して彼女は両手を上げると風の魔術痕を発動させ、自分の周囲に風の精霊を呼び集める。エルフである彼女は精霊魔法も扱え、風の精霊を通して学校内の様子を調べる。



(バルルとミイナは……無事のようね、マオ君とバルト君も傍にいるようね)



風の精霊を通して学校内の様子を探ったマリアはバルル達が行動を共にしている事を確認し、他には4人が倒したと思われるコウガの存在を感知して少し驚く。



(この男は……まさかコウガ?バルルが始末したのかしら?)



倒れているコウガの存在を感知したマリアはバルルが倒したのかと勘違いするが、他にも学校内にはミノタウロスの死骸や獣牙団の傭兵達が拘束された状態である事に気付く。



(どうやら私の出番はなさそうね)



風の精霊を通して学校内の状況を確認したマリアは安堵した。既に戦闘は終わっていたらしく、学園内の生徒とバルルが共に獣牙団を撃退した事を知る。気掛かりなのはミノタウロスの死骸まである事だが、恐らくだが七影も襲撃に参加したが既に立ち去った後だと悟る。


校舎内にて倒れているブラクを確認し、彼が抜け出している事を知ってマリアは驚く。しかし、既に何者かに敗れた後であり、医療室の方ではベッドに横たわるマカセと傍に控えるリンダも確認できた。



(いったい何が起きたというの?)



目を閉じながらマリアは屋上を歩くと、やがて彼女は屋上にて倒れている男を見下ろす。こちらの人物は七影のリクであり、その顔はマリアも知っていた。事前に捕まえたスリンから七影の似顔絵は確認しているので見間違うはずがなく、何故か屋上で死んでいるリクを見下ろしてマリアは疑問を抱く。



「どうしてこの男がここに……」



死体と化したリクを見てマリアは不審に思い、何者が彼を殺したのか気になった。少なくともバルル達の仕業ではない事は間違いなく、彼女はリクを殺した人間がまだ学園内にいるのかと思ったが、校内に残っているのは教師とだけである。

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