第348話 連携攻撃
(やった、できた!!だけどこれぐらいの大きさしか……!?)
氷の魔法を生み出す事に成功したマオだったが、まだ完全に体調を取り戻したわけではないのでせいぜい銃弾程の大きさの氷しか作り出せなかった。しかも風の魔石を失ったのでこの状態から風の魔力を加えて加速させる事はできない。
この状態で回転を加えて発射させたとしても、獣人族であるコウガはそれを見切って簡単に避けるだろう。獣人族との戦闘では風の魔力で回転や速度を上昇させなければ当てる事はできず、このまま撃ち込んだとしても通じないのは明白だった。
「駄目だ、この程度の氷じゃ……」
「マオ、いいから撃て!!」
「先輩!?」
「大丈夫だ、俺を信じろ!!」
マオが作り出した氷弾を見てバルトは何か考えがあるのか、彼は自分の杖をマオの氷弾に構えた。バルトの行動にマオとミイナは驚くが、すぐに彼の行動の意図を察したマオはミイナに頼む。
「ミイナ!!あいつを止めて!!」
「分かった!!」
「何をごちゃごちゃ喋ってやがる!!」
話している間にもコウガは迫り、もう少し時間が欲しいマオはミイナにコウガの足止めを頼む。ミイナはコウガが先ほどの攻撃で剛魔拳の魔力を使い切った事を見抜くと、彼女は敢えて魔拳を使用せずに突っ込む。
下手に魔拳を利用した攻撃を繰り出すと剛魔拳に吸収される恐れがあり、ミイナは魔法の力を頼らずに持ち前の身体能力を生かして突っ込む。正面から迫るミイナに対してコウガは躊躇なく拳を振り下ろす。
「馬鹿か!!」
「……ここっ!!」
コウガの繰り出した拳を見切ってミイナは跳躍すると、コウガの剛魔拳が地面に突っ込み、一方でミイナは空中で上着を脱いでコウガの顔面に被せる。
「ミイナ忍法!!」
「うおっ!?」
バルルと普段から実戦訓練で鍛えているミイナは魔拳だけではなく、魔法が使えない状態での実戦の戦い方も身に付けていた。彼女は相手の頭上を跳び越える際に自分の着こんでいる衣服を利用し、相手の視界を奪う方法を編み出した。
服を着ている状態でなければ利用できず、しかも服を脱げば当然だが彼女は下着状態になるのでバルルからは人前で使用するなと厳重に注意されていた。しかし、コウガを足止めするにはこの方法しかなく、彼女は上着をコウガに被せて隙を作り出すと、マオとバルトに告げた。
「今!!」
「「うおおおおおっ!!」」
ミイナの言葉に反応してマオとバルトは杖に魔力を込め、氷弾を徐々に回転速度を上げていく。マオは氷弾を操作し、その一方でバルトは風の魔力を送り込んで氷弾の回転速度を上昇させる。バルトはマオが失った風の魔石の代わりに自分の魔力で彼の魔法の強化を行う。
「このっ……!?」
「今だ!!」
「喰らえっ!!」
コウガはミイナの上着を顔から引き剥がした瞬間、隙を逃さずにマオは氷弾を発射させた。バルトの魔力のお陰で氷弾は風の魔力を纏い、加速した状態で繰り出す事に成功した。
自分に迫りくる氷弾を見てコウガは避け切れないと判断し、咄嗟に剛魔拳を構えた。しかし、ミイナの上着を顔から剥ぐために腕を上げていたのが災いし、防御は間に合わずに発射された氷弾はコウガの腹部を貫く。
「ぐはぁあああああっ!?」
コウガの絶叫が学園内に響き渡り、マオ達の連携によって繰り出された氷弾はコウガの腹を貫き、膝を地面に付いてコウガは口元から血を流す。
「ば、馬鹿なっ……!?」
自分が腹を貫かれたという事実にコウガは信じられず、やがて地面に倒れ込む。これまでの疲労と損傷によってコウガの意識は断たれ、それを見たマオ達は座り込む。
「た、倒した……」
「勝った……」
「は、ははっ……やったぞお前等!!」
どうにかコウガを倒す事に成功したマオとミイナは地面に横になり、一人だけ余力があるバルトは嬉しそうに腕を天に突き上げる。その一方で気絶していたはずのバルルが彼の声に反応し、ゆっくりと目を開く。
「いててっ……こ、ここは?」
「師匠!?」
「あ、生きてた……」
「うわっ!?びっくりした!!」
バルルは痛そうな表情を浮かべながらも身体を起き上げると、目の前の光景を見て唖然とした。自分を追い詰めたコウガが地面に倒れ、その傍には疲れ果てた表情の三人の弟子の姿があった。
何が起きたのかは見ただけで理解し、彼女は自分がどうする事もできなかった相手をマオ達は倒したのだと知る。その事実に彼女は驚愕する一方、心底嬉しく思う。
「あんた達がこいつをぶっ倒したんのかい?」
「な、何とか……」
「強かった。本当に何度も死ぬかと思った……」
「へへっ……でも、俺達の勝ちですよ」
バルルの言葉にマオ達は疲れながらもやり遂げた表情を浮かべ、そんな三人の言葉を聞いてバルルは苦笑いを浮かべ、夜空を眺めながら呟く。
「何だい……とっくにあんた達、あたしを越えてたんだね」
自分ではどうする事もできなかった強敵を三人が倒していた事を知ってバルルはマオ達が自分の力なんてとっくに越えていたと知って嬉しく思う――
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