第349話 マカセの手紙

――獣牙団の団長にして最強の盗賊であるコウガを打ち倒したマオ達は、意識を取り戻したバルルを連れて一旦は校舎内の医療室へ向かう。全員が何らかの怪我や疲労困憊の状態であるため、まずは治療を最優先する必要があった。



「これで大丈夫です。しばらくの間は休んでいてください」

「いてててっ……悪いね、助かったよ」

「まさかお前がここにいるとはな、助かったぜ」

「マオ、大丈夫?」

「うん、もう体調は戻ったよ」



医療室にはリンダが先に待ち構えており、彼女はバルルの怪我の治療を行う。医学の知識もあるのかリンダは慣れた手つきで治療を行い、全員の治療を瞬く間に終える。


どうしてリンダが医療室に居たのかというと、彼女は酷い怪我を負ったマカセを医療室に運び出す。彼自身はもう助からないと言ったが、それでもリンダはマカセを医療室に運び出して治療を行う。体内を黒蟲に喰い破られたのでいかなる治療を施しても駄目かと思われたが、医療室には様々な薬が常備されており、その中には貴重な回復薬も含まれていた。



「マカセ先生……大丈夫なんですか?」

「……分かりません、ですが最善の手は尽くしました」

「この馬鹿……一人で抱え込みやがって」



バルルはベッドの上に横たわるマカセに視線を向け、彼とは子供の頃からの腐れ縁だった。何だかんだでバルルはマカセの事を信頼しており、彼がまさかブラクに脅されていたなど夢にも思わなかった。


リンダはマカセが倒れる前に託された手紙をバルルに差し出し、彼女は手紙の内容はまだ読んでいない。バルルは意識を取り戻さないマカセを見つめながら彼が残した手紙を確認する。



「師匠、手紙にはなんて書いてあるんですか?」

「……どうやらブラクから聞き出した情報を記しているようだね」

「ブラク!?」



ここでブラクの名前が出てくるとは思わなかったマオは驚くが、マカセはブラクに体内に黒蟲を埋め込まれたせいで彼に逆らえずに従うしかなかった。しかし、表向きはブラクに従う一方、彼はどうにか学園長やバルルに危険を知らせようと手紙を用意していた。


常に黒蟲が体内に入っている状態のため、マカセはブラクを裏切る事はできなかった。しかし、万が一にも自分がブラに殺された場合に備えて彼は情報を手紙の残す。その内容とはブラクが立てた計画の内容だった。




――ブラクは最初に学園に侵入した理由は魔法学園の生徒に「強魔薬」を流通させ、才能ある生徒達を壊すつもりだった。魔法学園の生徒は将来的に国の利益になるように教育を施されるため、放置していると後々に盗賊ギルドの脅威と成りかねない。


まだ肉体面も精神面も未熟な生徒を巧みな話術で騙して強魔薬を与え、一時的とはいえ薬の力で強くなれた生徒の大半は強魔薬の魅力に抗えずに定期的に薬を欲した。しかし、強魔薬は飲み続けると人体に悪影響を与え、最終的には肉体も精神も壊れてしまう。


魔法学園の生徒に直接的に危害を加えれば学園長が気づかないはずがなく、そんな事をすれば学園に潜入しているブラクも危険に晒される。しかし、生徒達が自主的に彼と接触して薬を受け取る分には気づかれる可能性は低い。ブラクと接触している生徒達も強魔薬を飲んでいる事を学園側に知られると無事では済まず、最悪の場合は退学かあるいは別の処罰を受ける。


魔法学園に通う生徒は卒業までの間は問題事を起こさないように常に注意し、それでも強魔薬の魅力に取りつかれた生徒は学園側に気付かれないようにブラクと接触する。ブラクはいずれは強魔薬の魅力に取りつかれた生徒を利用し、魔法学園を崩壊させる事が彼の真の目的だった。




「あのくそ野郎……やっぱり、殺すべきだったね」

「ブラクはもう死にました……マカセ先生が私を助けてくれたんです」

「この先生、地味だけど良い人だったよな」

「私が授業をサボっても強く叱られた事はなかった」

「うん……それはどうかと思うけど、マカセ先生は良い人だよ」



マカセは生徒の間では地味で目立たない教師として認識されていたが、それでも彼の人柄の良さは理解されていた。マオもマカセの事は学園長やバルルの次に尊敬できる教師だと認識していた。


バルルは横になっているマカセに視線を向け、彼が助かるかどうかは運に任せるしかない。彼女は手紙を読みながら無意識にマカセの手を握りしめ、彼が死なない事を祈る。



(死ぬんじゃないよ、あたしと飲みに付き合ってくれる教師はあんたぐらいしかいないんだからね)



昔と比べるとバルルも他の教師との仲は良好になったが、それでも彼女と酒場に飲みに行く教師はマカセぐらいしかいない。尤もマカセは酒に弱くて一杯目で酔っぱらってしまうが、それでもバルルが誘う時は付いて来てくれた。


バルルにとってマカセは只の幼馴染ではなく、彼女の良き理解者で心の中では学園長と同じぐらいに信頼する人物だった。そんなマカセが最後に残してくれた手紙をバルルは読み終えようとした時、最後にとんでもない文章を確認する。

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