第346話 爆爪

「とうっ」

「うおっ!?」



ミイナは両手に炎爪を纏った状態で身体を回転させ、コウガに目掛けて攻撃を仕掛けた。咄嗟にコウガは剛魔拳で受けようとしたが、ミイナは持ち前の身軽さを生かして彼に攻撃を仕掛けると見せかけて頭上を跳び越える。



「にゃあっ!!」

「うおっ!?」



頭上を跳び越えてコウガの背後に回ったミイナは気合の込めた声を上げてコウガの後頭部に蹴りを繰り出し、思いもよらぬ攻撃を受けたコウガは身体がふらつく。


先ほどの闇属性の魔力の影響はコウガも受けており、いくら人間よりも生命力が高い獣人族と巨人族の血を継いでいるとはいえ、闇属性の魔石の破壊はコウガにも危険を及ぼす。しかし、彼がここへ来たのはミイナを誘拐してマリアへの人質にするためであり、目的の人物が現れた以上は逃がすつもりはない。



「中々の蹴りだ……だが、力不足だな」

「……それならこれはどう?」



後頭部に蹴りを受けながらもコウガは平然とした表情を浮かべ、ミイナの身のこなしは見事だが生憎とコウガに損傷を与える程の力はない。しかし、そんな彼にミイナは新しく覚えた技を試す。



「良い事を教えてあげる、私の爪は両手だけじゃない」

「何だと?」



ミイナは離している途中で靴を脱ぎ捨てて裸足になると、彼女は両足に魔術痕が浮き上がる。それを見たコウガは驚き、少し離れた場所で杖を構えていたバルトも驚きの声を上げる。



「お、お前!?その足はまさか……」

「爆爪!!」

「何!?」



魔術痕を両足に浮かび上がらせたミイナは両手だけではなく、両足にも炎を纏う。しかも単純に炎を纏うだけではなく、彼女は発生させた炎を利用してコウガに突っ込む。


爆炎を利用してミイナは加速すると、コウガの顔面に目掛けて膝蹴りを叩き込む。足の裏から発生した爆炎を生かして彼女は最大限に加速した状態で攻撃を繰り出し、それに対してコウガは反応が遅れて顔面に膝を受けた。



「ぐふぅっ!?」

「まだまだっ!!」



ミイナは膝蹴りの後に空中で身体を回転させると、再び両足の裏から爆炎を発生させて加速する。空中でも爆炎を利用して一時的に空を飛べるようになったミイナは上空に浮かぶと、コウガに目掛けて全体重を乗せた蹴りを繰り出す。



「落脚!!」

「ぶふぅっ!?」

「「おおっ!!」」



コウガの顔面にミイナの両足がめり込み、地面に叩きつける。それを見ていたマオとバルトは声を上げ、決着がついたのかと思った。しかし、地面に頭がめり込みながらもコウガは目を見開き、自分の顔を踏みつけるミイナの足首を掴むと持ち上げた。



「ごのっ……ガキがぁっ!!」

「わわっ!?」

「ミイナ!?」

「くそっ、まだ立てるのかよ!?」



ミイナを持ち上げたコウガは立ち上がると、顔面から大量の鼻血を噴き出しながらも彼女を振り回す。ミイナは必死に離れようとするが高速に振り回されたせいで目が周り、魔法を使う余裕もない。


切れたコウガはようやく捕まえたミイナを人質にする事を忘れ、本気で彼女を殺そうとした。それを見ていたマオはコウガを止めようとするが、まだ先ほどの闇属性の魔力の影響で魔法が使えない。



(くそっ!!こんな時に魔法が使えないなんて……!?)



もしもコウガがミイナを地面に叩き付ければ即死は免れず、その前に何としても彼女を救わなければならない。しかし、風属性の魔法の使い手のバルトが魔法を仕掛けたらコウガどころかミイナを巻き込むかもしれず、この状況下ではマオが何とかしなければミイナは助からない。



(どうすればいいんだ!?)



マオは必死に頭を巡らせ、ミイナが地面に叩きつけられる前にコウガを止めなければならない。彼は手持ちの道具を確認して何かないのかを考えると、ある事を思い出す。



(これだ!!)



先ほどミイナに受け取った魔力回復薬を手にしたマオはコウガの元に向かい、彼に目掛けて中身を振りかける。



「喰らえっ!!」

「ぶほっ!?」

「にゃっ!?」

「あ、危ねえ!?」



コウガの顔面に液体が降りかかり、視界を奪われたコウガはミイナを手放す。投げ飛ばされたミイナを見てバルトは杖を伸ばし、彼女が地面に落ちる前に手加減した風属性の魔法を放つ。



「ウィンドカーテン!!」

「にゃうっ!?」



防御用の魔法をバルトは発動させ、風の膜がミイナを包み込んでゆっくりと地面に下ろす。それを見たマオはミイナが無事だった事に安堵するが、折角彼女がくれた魔力回復薬を失ってしまった。


コウガは魔力回復薬が目に入ったせいで視界を一時的に封じられたが、薬の効果が発揮したのか先ほどと比べて身体が楽になった。魔力回復薬は自身の魔力だけを回復させる効果があるため、体内に吸い込んだ闇属性の魔力よりも自分の魔力が増える事で体調を取り戻す事ができる。



「このガキ共……もう容赦はせんぞ!!」

「くっ……!?」

「マオ、下がれ!!俺の魔法でぶっ飛ばしてやる!!」



自分に目潰しを仕掛けたマオにコウガは血走った目を向け、それを見たバルトは彼を助けようと杖を構えた。しかし、ミイナはバルトの行動を見て慌てて止めようとした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る