第344話 避雷針
「そんな物で防げると思っているのか!?」
「……防げる!!」
「何だとっ!?」
コウガは氷鎖を盾代わりに利用するマオに怒鳴りつけるが、マオは自信を持った表情で告げる。彼の言葉を聞いてコウガは攻撃を躊躇したが、もう後戻りはできない彼は剛魔拳を突き出す。
「がああっ!!」
「ここだっ!!」
剛魔拳が突き出された瞬間、マオは氷鎖の先端部を地面に突き刺した状態で鎖を伸ばす。傍から見れば氷鎖が真っ直ぐに伸びた状態で地面に突き刺さったようにしか見えないが、直後にコウガの放った雷撃が氷鎖に降り注ぐ。
氷鎖に雷撃が衝突した瞬間、氷鎖に電流が走って地面に伝わる。その光景を確認したマオは冷や汗を流し、一方でコウガの方は自分の繰り出した雷撃が地面に伝わって消えた光景を見て目を見開く。
(このガキ、まさか氷を避雷針代わりに利用したのか!?)
地面に氷鎖を突き立てたお陰でコウガの放った雷撃は地面に吸収され、その代わりにマオの氷鎖も溶けて消えてしまったがマオ自身は攻撃を受けずに済んだ。コウガは剛魔拳に視線を向けると、雷属性の魔力は使い切ってしまった。
(何だこいつは……俺はいったい何と戦っている!?)
次々と自分の繰り出す攻撃を最善の方法で防ぐマオに対してコウガは後退り、まるで熟練の魔術師と戦っているような感覚を覚える。その一方でマオはコウガを仕留める方法を考え、ある事を思いつく。
「はぁあああっ!!」
「何っ!?」
三又の杖を空に向けて構えたマオは次々と氷弾を撃ち込み、コウガは自分にではなくあらぬ方向に氷弾を撃ち込むマオに戸惑いを抱く。しかし、すぐに彼の行動の意図を理解してコウガは顔色を青ざめた。
上空に放たれた氷弾はコウガの周囲に散らばり、彼の逃げ場を失くす。周囲に数十発の氷弾に取り囲まれたコウガは逃げ場はなく、いくら身軽で動きが素早い獣人族だろうと、周囲を取り囲まれた状態で一斉攻撃されれば避ける事はできない。
「これで終わりだ!!」
「ぐぅっ……!?」
氷弾に取り囲まれたコウガは顔色を青ざめ、この状態では防御も回避もできない。剛魔拳で攻撃を防ごうとしても氷弾の数が多すぎるため、一斉に放たれれば全身が蜂の巣のように穴だらけになる。回避しようにも周囲を囲まれているので逃げ場はなく、完全に追い詰められた。
(まさかこんなガキにこの俺が……くそっ!!こいつを使わざる羽目になるとは!!)
コウガは本来は人質を攫うために用意しておいた魔石を取り出す。彼が取り出したのは闇属性の魔石であり、これを使用すればコウガ自身の身も危ないが、この状況を打破するためには致し方ない。
「分かった。降参する……その女はまだ生きている、死んではいない」
「えっ……」
「嘘だと思うのなら確かめろ」
マオに勘付かれないようにコウガは両手を上げて降参するふりを行い、彼にバルルが生きている事を伝えた。マオは驚きながらもバルルに視線を向け、杖をコウガに構えたまま彼女の元に近付く。それを確認したコウガは内心で笑みを浮かべる。
「師匠!!しっかりして……師匠!!」
「うっ……」
倒れているバルルにマオは声をかけると僅かにバルルの反応があり、彼女が生きていると知ったマオは安堵した。しかし、この時にマオはコウガから注意を反らしてしまい、その隙を逃さずにコウガは懐から目当ての魔石を取り出す。
決してマオに気付かれないようにコウガは後ろに手を回し、剛魔拳で魔石を握りしめる。マオはバルルからコウガに視線を向けると、彼は座り込んで後ろに腕を組んでいた。
「とっとと捕まえろ……さっきの魔法で俺を拘束する事ができるだろう?」
「……動くな」
マオは警戒しながらもコウガに近付き、再び氷鎖を生み出して彼を拘束しようとした。だが、マオが近付いた瞬間にコウガは剛魔拳の中の魔石を握りしめ、不意打ちを行う。
「馬鹿が!!お前等、そいつを殺せ!!」
「えっ!?」
コウガはマオに対して声をかけると、他に仲間がいるのかとマオは後ろを振り向いてしまう。その隙を逃さずにコウガは闇属性の魔石を握りしめ、力ずくで魔石を破壊した。
魔石を破壊した瞬間、剛魔拳は漆黒に染まった。闇属性の魔力を吸収させる事に成功したコウガは笑みを浮かべ、彼は剛魔拳を大地に目掛けて全力で叩き込む。
「うおおおおおっ!!」
「なっ!?」
剛魔拳が大地にめり込んだ瞬間、内部に蓄積されていた闇属性の魔力が周囲に拡散した。マオの視界ではコウガの肉体が黒い煙のような物に覆い隠された様に見えたが、煙に見えるのは闇属性の魔力であり、広範囲に散らばる。
(何だこれは……!?)
闇属性の魔力はマオの元にまで迫ると、彼は咄嗟に口元を塞いだが頭痛を引き起こして膝をつく。闇属性の魔力は聖属性の魔力と相反する魔力であり、聖属性の魔力が生物の生命力を高める効果を持つのに対し、闇属性の魔力は真逆に生命力を奪う効果を持つ。
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