第343話 師を越えた弟子

「師匠が死んだなんて……嘘を吐くな!!」

「何っ……!?」



マオの雰囲気が一変した事に気付いたコウガは背筋が凍り付き、若い頃に凶悪な大型の魔物と対峙した時以上の恐怖を抱く。自分が人間の少年に対して恐れを抱いている事にコウガは信じられなかったが、獣人族の野生本能が目の前の少年を侮ってはならないと告げていた。


咄嗟にコウガは剛魔拳を前に向けると、マオは三又の杖を繰り出して先端部を回転させる。その状態から氷弾を連射させ、コウガに目掛けて放つ。



乱射ガトリング!!」

「ぬうっ!?」



無数に発射された氷弾に対してコウガは先ほどバルルから吸収した火属性の魔力を利用し、剛魔拳を加熱させて氷弾を防ごうとした。しかし、いくら剛魔拳で氷弾を溶かそうとしても接触の際は衝撃を受けてしまい、彼の身体が徐々に後退する。



(何だ、この魔法は……!?)



マオの繰り出す氷弾に対してコウガは焦りを抱き、一発一発が非常に重い。ただの氷の礫ではなく、一つ一つが生身で受ければ確実に肉体を貫く威力はあった。



(強い……さっきの女以上だ!!)



氷弾を受け続けながらコウガはマオの力を認め、先ほど倒したバルル以上の魔法の使い手だと判断した。魔拳士であるバルルと魔術師のマオを比べるのはどうかと思われるが、少なくともコウガにとってはマオの魔法はバルルの魔拳よりも脅威だと感じた。


このまま攻撃を受け続けると剛魔拳が吸収したバルルの魔力が尽きてしまうと判断し、防御を中断してコウガは駆け出す。それに対してマオは杖を振り払って追撃を行う。



「逃がすか!!」

「ちぃっ!?」



逃走を計ったコウガに対してマオは三又の杖を構えて今度は複数の氷刃を作り出す。本来は殺傷能力が高いので人族が相手の場合は滅多に使わないが、バルルを傷つけた相手なので容赦せずに氷刃を放つ。


チャクラムの様に変化させた氷の刃がコウガの背後から迫り、それを見たコウガは剛魔拳で受け止めるべきか考えた。しかし、コウガはマオの作り出す氷を見て舌打ちする。



(こいつは氷を操るのか……ならば魔力は吸収できん!!)



火や雷の魔法ならば剛魔拳で受け止めれば吸収するが、実体を持つ氷の魔法の場合は剛魔拳では魔力を吸収する事は難しい。マオの作り出す氷は彼の魔力で造り出された代物だとしても、物体を吸収する事はできない。



(このままではまずい……本体を叩かねば!!)



魔法を吸収する事ができないのであればとコウガはマオに狙いを定め、彼の元に目掛けて突っ込む。大抵の魔術師は接近戦を不得手としており、相手に近付ければ杖を叩き落して魔法を使えなくする事もできた。



「がああっ!!」

「……遅い」



しかし、接近したコウガがマオに腕を伸ばしたが、まるでその行動を予測していたかのようにマオは少し身体をずらして攻撃を避けた。これまでにコウガが戦ってきた魔術師は彼の動きを見切る事もできずに呆気なく倒されたが、今回の相手は分が悪すぎた。



「だあっ!!」

「ぐはっ!?」



コウガの伸ばした腕を回避するのと同時にマオは風属性の魔術痕が刻まれた右手を繰り出し、風属性の魔力を発生させて至近距離から風圧を放つ。思いもよらぬ反撃にコウガは吹き飛び、彼は強制的にマオから離された。


魔術師の最大の弱点である接近戦に関しての訓練も2年の間に行い、毎日のようにマオはバルルのような格闘家やミイナのような素早い動きを行う獣人族を相手に練習を行う。相手が近付いた場合、自分がどのように対処するべきか2人との訓練で身を守る術を身に付けている。



(ぐっ……こいつ、本当にガキか!?)



接近戦さえも見事に対応された事にコウガはマオが本当に子供なのかと疑う。彼がこれまで戦ってきた魔術師は彼が近付けば慌てふためいて何もできなかったが、マオはコウガに対して最善の一手を繰り出す。



氷鎖チェーン!!」

「何だとっ!?」



コウガが離れるとマオは新たに氷塊を作り出し、それらを繋ぎ合わせて氷の鎖を生み出す。コウガは自分を捕まえるつもりなのかと焦り、剛魔拳を構えるが既にバルルの魔力は使い切っていた。



(ちぃっ……まさかここで使う羽目になるとは!!)



このままではマオに捕まると判断したコウガは奥の手として隠し持っていた魔石を取り出す。コウガが手にしたのは「雷属性」の魔石であり、彼は剛魔拳で魔石を握り潰すと内臓されていた魔力を吸収させる。



「がぁあああっ!!」

「なっ!?」



剛魔拳で魔石を破壊した途端、魔石の中に蓄積されていた魔力が迸り、剛魔拳に吸収された。黄金級冒険者のライゴウとの戦闘で吸収した時以上の魔力が剛魔拳に宿り、コウガはマオに目掛けて拳を突き出す。


電流を迸らせる剛魔拳を見たマオは直感で危険に気付き、このままではまずいと判断したマオは自分が作り出した氷鎖に視線を向けた。彼はコウガが攻撃を行う寸前、氷鎖を自分の前に移動させる。

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