第342話 最強の弟子
「はあっ、はあっ……」
「大した精神力だな。だが、その状態で俺に勝てると思ってるのか?」
「……無理だろうね」
「ほう、意外と潔いな」
コウガの問に対して得意の悪態を返す事もできず、彼女は負傷した両腕を見てとてもではないがコウガを止める事はできない事は理解していた。しかし、それでも彼をここへ通すわけにはいかない。
マリアから魔法学園の事を任されたバルルは命に代えてもここを守るつもりだった。しかし、彼女の力ではコウガを止める事はできない。苦悩の上にバルルは残された両腕を重ね合わせ、爆拳の体勢に入った。
「ここから先に行きたかったら……あたしを殺してから行きな」
「なるほど、死ぬ覚悟はあるわけか。だが、その拳ではもう戦えまい」
「はっ……舐めるんじゃないよ」
両腕は攻撃を受けた際に酷く損傷し、動かす事ができるのが奇跡だった。もしもこの状態でコウガと戦えばバルルの命は数秒も持たないだろう。それでも彼女は両拳を重ね合わせ、最後の魔力を振り絞る。
「良い事を教えてやるよ……あたしには三人の弟子がいる。そいつらの誰かがあんたを必ずぶっ倒すよ」
「ほう、師である貴様よりも強いのか?」
「ああ、そうさ……どいつもこいつもあたしなんかとっくに超えてるよ」
「面白い冗談だ」
コウガはバルルと手合わせして彼女が只者ではないと知り、バルルが教師だとしたら彼女の語る弟子とは魔法学園の生徒達の事を意味している。しかし、いくら魔法を使えるからと言って教員であるバルルよりも優れた生徒がいるなど思えなかった。
他国から訪れたコウガは魔法学園に通う生徒の事をただの子供の魔術師という認識しかなく、魔法学園の生徒の噂も聞いていなかった。だからこそバルルの言葉が信じられなかったが、そんな彼にバルルは笑みを浮かべる。
「良い事を教えてやるよ、うちの弟子達は師匠思いでね……必ず私が助けを求めれば駆けつけてくるのさ」
「何だと?」
「来な!!
バルルは両拳を上に振りかざすと、それを見たコウガは彼女の狙いが自分ではない事に気付き、何をするつもりかと驚いた。バルルはコウガではなく、足元の地面に目掛けて拳を繰り出す。
「火柱!!」
「何っ!?」
地面に拳が叩きつけられた瞬間、バルルは残された魔力を使用して名前の通りに火柱を作り上げる。一瞬だけ魔法学園内の敷地に火柱が上がり、直後にバルルは地面に倒れ込む。
残された魔力を使い果たしたバルルは満足げな表情を浮かべて意識を失い、それを見たコウガは戸惑う。彼女が完全に気絶した事を確認すると、彼は剛魔拳を向けた。
「何のつもりか知らんが……望み通りに殺してやる」
何故だか分からないがコウガはバルルをここで殺さなければならないと判断し、彼女が意識を取り戻す前に止めを刺そうとした。しかし、コウガがバルルの元に向かおうとした瞬間、彼は視界の端に何かを捕らえた。
「
「何!?」
上空から聞こえた声にコウガは振り返ると、そこには自分に目掛けて高速回転しながら迫る円盤状の氷の刃を発見した。驚いたコウガは剛魔拳を構えると、先ほど吸収したバルルの火属性の魔力を利用して剛魔拳を加熱させ、氷柱を正面から受け止める。
「ぐおおおっ!?」
氷刃を受け止めたコウガは剛魔拳の熱を利用して溶かし尽くし、どうにか身体を切り刻まれる事は避けた。彼は何が起きたのかと空を見上げると、そこには空中を浮かぶ氷塊の上に立つ少年が存在した。
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自分に攻撃を仕掛けてきたのが少年だと知ったコウガは動揺を隠せず、先の一撃はコウガの反応が遅れていたら今頃は彼の身体は切り裂かれていた。恐らくだが少年の正体はこの魔法学園の生徒だと思われるが、どうしてこの状況下で魔法学園の生徒が現れたのかとコウガは不審に思う。
一方で空中を浮かぶ氷塊の上に佇む少年は倒れているバルルに視線を向け、彼女の近くに立っているコウガを見て状況を把握すると、怒りの表情を浮かべて地上へ降り立つ。
「よくも師匠を……!!」
「師匠?そうか、こいつの言っていた弟子とはお前の事か……ふんっ、死に際に間に合わなかったな」
「なっ……!?」
バルルは気絶しているだけだが事情を知らない少年に対してコウガは動揺を誘うために彼女が死んだと伝えた。バルルが死んだと聞かされた少年はあからさまに動揺し、それを見たコウガは好機だと判断した。
少年が動揺した一瞬の隙を逃さず、コウガは彼の元に目掛けて突っ込み、獣人族の身体能力を生かして一気に距離を詰める。相手がどんなに腕利きの魔術師だろうと所詮は人間の子供である事に変わりはなく、自分の一撃を受ければ無事では済まない。そう判断したコウガは接近して少年に一撃を喰らわせようとした。
しかし、すぐにコウガは少年に接近した事を後悔する羽目になる。彼が相手にしているのはこの魔法学園の中でも魔術師の中では「最強」の座に一番近い生徒である事を彼は知らなかった。
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