第341話 爆拳VS獣王

「あんたが盗賊ギルドの一員という事は知ってるよ。ここでぶちのめしてやる!!」

「一員?笑わせるな、奴等とは利害が一致しているから手を組んだに過ぎん……いずれ奴等を従える。そうすればこの国は俺の物だ」

「はんっ!!笑わせるんじゃないよ、盗賊が偉そうな口を語るなっ!!」



バルルはコウガに対して構えると、それに対してコウガは同じように身構えた。獣人族であるコウガの方が身体能力は上である事は重々承知しているが、バルルもこの二年の間に冒険者時代の勘を取り戻し、更に新しい力を手に入れていた。


彼女のに火属性の魔術痕が浮き上がり、両手に火属性の魔力を纏わせる。この2年の間にバルルはマリアに二つ目の魔術痕を刻んで貰い、両手で魔拳を発動できるようになっていた。



「行くぞ!!くそったれ!!」

「ほう、両手に魔拳か……流石に初めて見るな」



両手に炎を纏ったバルルを見てコウガは素直に驚き、彼が戦ってきた相手の中で両手に魔拳を発動させた相手は今までにいなかった。バルルはコウガに対して踏み込み、次々と拳を繰り出す。



「おらおらおらっ!!」

「人間にしては中々の動きだな。だが……ぬうっ!?」

「はっ!!どうしたんだい!?」



拳を繰り出してきたバルルに対してコウガは避けようとしたが、彼女に近付くだけで両腕の炎の熱気を感じ取り、動きが鈍ってしまう。コウガの身体能力と動体視力では相手の攻撃を紙一重で躱す事も可能だが、バルルは両腕に纏った炎を調整して相手が拳を避けたとしても腕に纏う炎の熱気は防がせない。


バルルの纏う両腕の炎はただの炎ではなく、彼女の意志で炎の規模や熱気を自由に調整できる。そのために紙一重で避けようとする相手には炎の規模を大きくさせて拳が当たらなくとも炎その物を当てる事はできた。



「ちぃっ……」

「よそ見するんじゃないよ!!」



攻撃を躱そうとしたコウガだったが、バルルの魔拳によって頬が僅かに火傷を負い、僅かだが表情を歪ませた。それを見たバルルは追撃を行い、彼女は両腕に纏った炎を両手に集中させる。



「これで終わりだよ!!」

「ぬうっ!?」



腕全体を覆っていた魔力を両拳に集中させた彼女はコウガに目掛けて突き出すと、それに対してコウガは右腕の義手を振りかざし、彼女の重ねた両拳とコウガの義手が接触した瞬間、爆発を引き起こす。



「爆拳!!」

「ぐあっ!?」



衝突と同時にバルルは両手に纏った魔力を解放すると、爆発の如き勢いで火属性の魔力が拡散し、コウガの悲鳴が響く。彼女の爆拳はゴーレムを吹き飛ばす威力を誇り、しかも両手で繰り出した事で威力は倍増している。


並の人間ならば魔法耐性の高い装備を身に付けていたとしても爆炎の威力に耐え切れなかっただろうが、攻撃を受けたはずのコウガは全身に黒煙を纏う。それを見たバルルは仕留めたのかと思ったが、やがて黒煙の中から声が響く。



「はあっ……今のは焦ったぞ」

「なっ……そ、そんな馬鹿なっ!?」



まともに爆炎を受けたはずにも関わらず、黒煙の中から出てきたコウガは上半身の服が焼けただけで怪我自体は大した事はなかった。バルルは自分の爆拳を受けて生き延びた彼を見て信じられない表情を浮かべ、一方でコウガの方は義手に視線を向ける。



「この剛魔拳はあらゆる魔法を吸収する特性を持っていてな……お前の繰り出した魔剣を吸収させてもらった」

「ま、まさか!?」

「そしてこの剛魔拳にはもう一つの能力があってな……吸収した魔力を使えばこんな事もできる」



コウガの義手が全体的に赤色に変色し、まるで高温に熱した金属のように変化する。それを見たバルルは自分の魔力を吸収して逆に利用している事に気付き、彼女は咄嗟に両腕を重ねて防御の体勢に入った。



「喰らえっ!!」

「ぐぅっ……ああああっ!?」



防御態勢に入ったバルルに対してコウガは剛魔拳を繰り出すと、バルルは攻撃を受けた瞬間に高温の金属を押し当てられ、攻撃を受けた両腕の一部が焼けるのではなく溶けてしまう。


コウガの怪力から繰り出された一撃でバルルは吹き飛び、両腕が負傷した状態で彼女は白目を剥いて気絶した。それを確認したコウガは赤く変色した義手に視線を向け、しばらくの間は彼女から吸収した魔力は消えない事を察する。



「楽しませてもらったぞ。だが……ここまでだな」



倒れたバルルを一瞥してコウガは先に進もうとしたが、彼が歩み出した途端にバルルは目を開き、必死に立ち上がろうとする。



「ま、待ちな……」

「何?まだ生きていたか……そうか、火属性の魔術師だから耐性があったわけか」

「はあっ、はあっ……」



攻撃を受けて深手を負ったバルルだったが、コウガが繰り出した攻撃はそもそも彼女の魔力を吸い上げた一撃である。つまりは火属性の魔法攻撃に等しく、火属性の魔術師であるバルルは火属性の魔法に強い耐性を持つ。だが、それでも立ち上がるのがやっとで両腕はとても使い物にならない。

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