第338話 魔術師殺し
――コウガが逃げ去った後、ネカの屋敷にはマリアが赴く。彼女は最初は魔法学園に戻るつもりだったが、七影のワンに言われた事が気になって先にネカの屋敷に訪れ宇都、そこには大勢の兵士と冒険者が倒れていた。
「こ、これはいったい……何があったんですか!?」
「……落ち着きなさい、まだ生きている人間もいるわ」
「ううっ……」
「た、助けて……」
マリアはエルマと共に倒れている人間の様子を伺い、全員が酷い怪我を負っていたが辛うじて生きている状態だった。しかし、黄金級冒険者のライゴウだけは既に事切れていた。
「うっ……こ、この臭いは」
「……近づかない方がいいわね」
ライゴウの元にエルマは近寄ろうとしたが、甲冑から漂う臭いを感じ取って顔色を青くする。既にライゴウは死亡していると思われ、甲冑の中を確認しなくて焦げた臭いだけで中身はどうなっているのか想像はできる。
「コ、コウガ……奴に全員やられました……」
「コウガ……例の獣牙団の団長ね」
「や、奴は化物です……あのライゴウを一瞬で殺しました」
「し、信じられない……黄金級冒険者が敗れるなんて!!」
辛うじて意識が残っていた生存者から何が起きたのか尾w聞き出し、彼等がコウガ一人に敗れたと聞いてエルマは動揺した。マリアも表面上は冷静な態度を保つが、まさかライゴウが敗れるとは予想できなかった。
黄金級冒険者のライゴウはマリアと面識があり、盗賊ギルドの計画を阻止するために助力を申し込んだのはマリアだった。ライゴウは魔法剣士で魔剣カラドボルグの使い手であり、間違いなくこの国の中でも最強の剣士である。
そのライゴウがコウガに敗れたと聞いてマリアは驚きを隠せず、コウガという男がどのような手でライゴウを殺したのか気になった。純粋な実力でライゴウが敗れたとは思えず、マリアはコウガがどのような手段でライゴウを殺したのかを問う。
「ライゴウは何故敗れたの?」
「そ、それが……奴の右腕、義手だったんです」
「義手?どういう意味ですか!?」
「ライゴウ殿が剣から雷を放った時、奴は右腕で受け止めて……そうしたら奴の皮膚が焼けて中から義手が現れたんです」
「義手……」
コウガが義手を装着しているという話は聞いた事もなく、マリアも独自に獣牙団の調査を行ったが団長が義手を装備している情報はなかった。
「奴の義手にまるで雷が吸い込まれるように消えて……その後、あいつに切りかかったライゴウ殿が頭を掴まれた後、奴の右腕から電流が迸ったんです。そして奴が頭を離した時には既にライゴウ殿は……」
「義手に電流……まさか、そういう事なの?」
「学園長、何か知っているんですか!?」
話を聞いていたマリアは目を見開き、彼女の反応からコウガの装備している義手の正体を何かしっているのかとエルマは問い質すと、マリアは腕を組んで考え込む。
(まさか、あの魔道具を完成させていたというの?いえ、そうだとしてもどうしてコウガがそれを……)
コウガの装着していた義手に関してはマリアも心当たりがあったが、どうして彼が身に付けているのか疑問を抱く。しかし、今はコウガが魔道具を手に入れた経緯よりも、彼が何処に逃げたのか確かめるのが先決だった。
「コウガは何処へ?」
「わ、分かりません……我々が目を離した隙に消えていました」
「学園長……」
「……一刻も早く、コウガを探し出す必要があるわ」
もしもマリアの予想通りならば現在のコウガは魔術師にとっては「天敵」に等しい存在と化しており、仮にコウガが魔法学園に向かっていたとしたら生徒達の命が危ない。
エルマを残してマリアは魔法学園に向かう事を決めると、彼女は最後にライゴウの元に赴き、自分が遅れたせいで彼を助ける事ができなかった事を謝罪する。
「……ごめんなさい、私のせいでこんな目に遭わせて」
横たわったライゴウから返事はなく、マリアは祈りを捧げると魔法学園へ向かおうとした。だが、彼女が出て行こうとした途端に屋敷を取り囲む鉄柵に異変が生じる。
「きゃっ!?」
「この光は……!?」
マリアが屋敷の敷地から出ようとした瞬間、鉄柵に嵌め込まれていた緑色の水晶が光り輝き、屋敷全体をドーム状の緑色の障壁が取り囲む。それを見たマリアは魔法学園で訓練や試験の際に利用する結界石と呼ばれる魔石だと気付く。
「これは……結界ね、どうやら私達は封じ込められたようね」
「そ、そんな!?」
「……しかもただの結界じゃないわね。屋敷から人が出て行こうとすると発動する術式が仕組まれているわ」
「マリア様の魔法で破壊できないのですか!?」
「……無理ね、結界を破壊したとしてもすぐに新しい結界が展開されるように仕込まれているわ」
マリアは屋敷の鉄柵を確認すると、無数の結界石が嵌め込まれていた。仮に結界を破壊するのならば全ての結界石を壊さなければ抜け出せない仕組みとなっており、結界石の数は軽く数えても1000を超えていた。
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