下級魔導士と呼ばれた少年

第337話 コウガの奥の手

――コウガが装着する義手はただの義手ではなく、吸魔石が仕込まれていた。吸魔石はマオも訓練の一環で使用した事もあるが、コウガの義手に装着された吸魔石は更に特別な術式が刻まれていた。

彼の義手に装着した吸魔石は自分の魔力を吸い上げる事はなく、外部から魔法攻撃を受けた場合のみに吸収する仕様となっている。分かりやすく言えば相手からの攻撃魔法だけを吸収する機能を持ち、彼は過去に何人もの魔術師の放った魔法を無効化して返り討ちにした。

「はぁあああっ！！」

『馬鹿なっ！？』

コウガはライゴウの繰り出したカラドボルグの雷撃を吸収すると、普通の腕のように偽装していた義手が露わになる。彼は普段から義手の存在が気づかれないように普通の腕に見えるように偽装していた。そしてライゴウの一撃を受けた義手は電流を迸らせる。

相手が繰り出した魔法を吸収するだけではなく、奪い取った魔法の魔力を利用してコウガは反撃を繰り出す準備を行う。ライゴウは危険を察知すると、すぐに周りの人間に逃げるように促す。

『お前達、早く逃げろ！！』

「えっ！？」

「ど、どういう事ですか！？」

「いったい何が……」

「……もう遅い！！」

ライゴウの言葉に兵士や冒険者は戸惑うが、コウガは既に狙いを定めていた。彼は右腕に電流を迸らせた状態で駆け出し、それを見たライゴウは咄嗟にカラドボルグを振りかざす。

『近付くな！！』

「おっと！！」

カラドボルグを繰り出してきたライゴウに対してコウガは頭を下げて回避すると、義手に電流を纏った状態でライゴウの身体に掌底を繰り出す。

「喰らえっ！！」

『ぐあああああっ！？』

「ライゴウさん！？」

「そ、そんな！？」

自ら生み出した電撃を逆に喰らう事になったライゴウは悲鳴を上げ、彼の身体に電流が流れ込む。ライゴウの装備している鎧は魔法金属なので魔法耐性はあるが、それを見越してコウガは甲冑の目元の隙間に指を食い込ませる。

魔法金属製の鎧は外部からの魔法攻撃には強いが、内部に魔法を送り込まれた場合は逆効果を引き起こし、使用者の身体に延々と魔法が流れ込む。ライゴウの鎧の内部で電流が流れ込み、それを確認したコウガは手を離すとライゴウは甲冑の隙間から煙を上げながら倒れ込む。

「まずは一人」

『がはぁっ……！？』

「そ、そんな！？ライゴウ！！しっかりしろ！！」

「嘘だろ、あのライゴウがやられるなんて……」

「な、何をしている！！相手は一人だ、全員でかかれ！！」

ライゴウが倒れた光景を見て他の者は衝撃を受けるが、すぐに兵士はコウガを取り押さえるように指示を出す。しかし、コウガは動じずにライゴウが落とした魔剣カラドボルグを拾い上げる。

「良い剣を持っているな」

「なっ！？た、隊長！！奴が魔剣を……」

「お、落ち着け！！魔剣といえども適性がない人間には扱えないはず……」

「それはどうかな……ふんっ！！」

コウガは義手で魔剣カラドボルグを拾い上げると、カラドボルグの刃に電流が迸る。それを見た者達は驚愕の表情を浮かべ、本来であれば雷属性の適性がなければ扱えないはずの武器をコウガは発動させた。

「そ、そんな馬鹿な！？何故奴がカラドボルグを……」

「有り得ない！！まさか、奴は雷属性の適性があるのか！？」

「ば、馬鹿な……そんな都合がいい話があるか！！」

「言い争いをしている場合か？」

カラドボルグを手に入れたコウガは笑みを浮かべ、そんな彼を見て集まっていた兵士と冒険者達は顔色を青ざめる。コウガは彼等に目掛けてカラドボルグを振りかざすと、電撃を放つ構えを取る。

「逃げないと黒焦げだぞ！！」

『うわぁあああっ！？』

コウガの行動を見て兵士と冒険者は一目散に逃げ出し、それを見たコウガは笑いながら剣を振り下ろすのを辞めた。そして彼はライゴウの傍に落ちているカラドボルグの鞘を拾い上げ、刃を鞘に納める。

「安心しろ、お前等は見逃してやる……今はな」

「ひっ！？」

「お、怯えるな！！相手は一人だ！！おい、魔術師は攻撃しろ！！」

「そ、そうだ！！一斉に撃てば奴も無事では済まない！！」

兵士と冒険者の中には魔術師も含まれ、彼等はコウガに対して杖や小杖を構えた。それを見たコウガは余裕そうな表情を浮かべ、逃げもせずに立ち尽くす。

複数の魔術師に取り囲まれた状態でありながらコウガは余裕の態度を貫き、彼の姿を見て魔術師達は怖気づくが、ここで彼を止めなければ大きな被害が生まれる。

「撃て！！」

「ファイアボール！！」

「サンダーランス！！」

「スラッシュ！！」

各方向から様々な魔法が放たれ、それを見たコウガは笑みを浮かべると彼は義手を地面に振りかざす。そして魔法が直撃する寸前、コウガは義手から電撃を放って自分の周囲に拡散させた。

「ふんっ！！」

『うわぁっ！？』

コウガが電撃の防護膜を作り出した瞬間、複数の魔法が衝突して入り混じり、光の衝撃波と化す。各属性の魔法が衝突する反発作用を引き起こし、強烈な光と衝撃波を生み出す。それを利用してコウガは姿を消し、残されたのは衝撃波の影響で倒れた兵士と冒険者達だけだった――