第336話 最強VS最凶

――ネカの屋敷にてコウガは酒を飲んでいた。彼の周りには裸の女たちが倒れており、既に意識を失っていた。コウガは部下達に作戦を任せている間、ずっと屋敷の中で酒と女を喰らっていた。



「ううっ……」

「あっ……」

「はあっ、はあっ……」

「……飽きたな」



コウガは上半身が裸の状態でベッドに座り、空になった酒瓶と倒れている女たちを見て呟く。彼は空瓶を床に放り込むと、眠たそうに欠伸を行う。


この時に倒れている女の一人がコウガが欠伸を行った瞬間、目を開いてベッドの下に隠していた短剣を取り出す。実は彼女はスリンの用意した娼館の女性ではなく、とある人物の指示でコウガの元に訪れた刺客だった。



「やああっ!!」

「ぐうっ!?」



女性はコウガの背中に目掛けて短剣を突き刺し、殺気に勘付いたコウガは咄嗟に振り返るが右腕に刃を受けてしまう。刃には毒が塗り込まれており、掠り傷程度の怪我でも確実に相手を殺す威力はあった。



「死ねっ……がふっ!?」

「……惜しかったな」



しかし、コウガの右腕に短剣が突き刺さったと思われたが、まるで鋼鉄のように硬い皮膚によって短剣の刃が弾かれ、逆にコウガは女の首元を掴む。万力のような握力で掴まれた女性は必死に抵抗しようと手に持った短剣で腕を切り付けるが、背中と同様に刃が通らない。



(何なの、こいつの肉体……!?)



どれだけ切り付けようとコウガの肉体には傷一つ付かず、女性はやがて白目を剥いて気絶した。そんな女に対してコウガは笑みを浮かべ、ベッドの上に横たわらせる。



「気が強い女は嫌いじゃない。見逃してやる」



コウガは自分を殺そうとしたにも関わらずに女性には手を出さず、そのまま放置して外へ抜け出す。この時に彼は床に落ちていた。獣の毛皮で造り出した上着を羽織る。


当初の予定では作戦の経過を報告する連絡が来てもおかしくはないのだが、未だに誰も訪れない。それどころか屋敷の中にはコウガと女達以外に気配は感じられず、彼は建物の外に出ても人の姿が見えなかった。



「……この俺を嵌めたつもりか?」



野生の直感でコウガはリクかネカが自分を嵌めようと屋敷に残したと悟る。彼の直感は外れた事はなく、実際にこの直感のお陰でコウガは何度も窮地を脱してきた。


コウガはこのまま屋敷に残ると面倒な事に巻き込まれそうな気がして早々に立ち去ろうとしたが、玄関の方から馬の足音を耳にした。時すでに遅かったらしく、屋敷は既に大勢の兵士と冒険者に囲まれていた。



『獣牙団の団長コウガ!!貴様がここにいるのは分かっている!!大人しく捕まれ!!』

「ほう……俺の正体まで気づかれているか」



屋敷の外から兵士を率いる隊長らしき男性の声が響き渡り、声を大きくさせる魔道具を使用しているらしい。コウガは既に自分が屋敷の中にいる事がバレている事を知り、首を鳴らしながら玄関の方へ向かう。


既に屋敷の周囲には1000人を越える警備兵と数十名の冒険者が待機しており、その中には黄金級冒険者のライゴウの姿もあった。ライゴウの姿を見たコウガは只者ではないと察し、拳を鳴らしながら大勢の兵士と冒険者の前に立つ。



「俺がコウガだ。お前等は誰だ?」

「お、お前が……!?」

「こいつがあの獣牙団の団長……なんて凶悪そうな人相だ」

「び、びびってんじゃねえっ!!こいつを捕まえればもう終わりだ!!」



1000を超える兵士と腕利きの冒険者を目の前にしながらコウガは一切動じず、黄金級冒険者であるライゴウが彼の前に立ちはだかる。彼が所有する大剣は「カラドボルグ」と呼ばれ、魔剣の中でも最強と謳われている。



「ほう、魔剣使いか……属性は何だ?雷属性か?」

『……おしゃべりな奴だ』



コウガはライゴウを前にしても余裕の態度を崩さず、そんな彼に対してライゴウはカラドボルグを構えた。王国最強の冒険者と獣人国の最凶の犯罪者が向かい合い、それを見ていた他の者達は圧倒されてしまう。


数は有利なのは重々承知しているが、コウガの迫力とライゴウの気迫のせいで他の人間は動く事ができなかった。コウガはライゴウの大剣に視線を向け、自身も拳を握りしめて構える。



「さあ、来い」

『……ふんっ!!』



コウガは中指を立てて挑発すると、それを見たライゴウはカラドボルグを振り落とす。大剣から電流が迸り、ライゴウの元に目掛けて雷の如く放たれた。しかし、コウガは雷に対して掌を伸ばして正面から受け止めた。



「はははははっ!!」

『何だと!?』

「そ、そんな馬鹿なっ!?」

「何が起きている!?」



ライゴウの放った電撃をコウガは避けるどころか防御すらもせずに正面から掌で受け止めた。その光景を見ていた他の者達は信じられぬ表情を浮かべ、一方でコウガは高笑いを行う。



「中々の電撃だな。だが、この程度の攻撃で俺を仕留めきれると思っていたのか?」

『貴様、その腕はまさか……!?』

「気付くのが遅かったな!!」



コウガは電撃を受け止めた右腕の皮膚が焼けると、内部から漆黒の金属の腕が露わになった。実はコウガは右腕は義手であり、しかもただの義手ではなく、魔法金属製の義手を嵌めていた。

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