第333話 裏切り
「待たせて悪かったわね」
「貴様!!何を考えている!?あれほど時間は厳守しろと言っただろう!!」
「まあ、落ち着け……スリン、何かあったのか?」
「ええ、色々と準備に時間が掛かったのよ」
ワンはスリンに激怒するが、ゴーノは彼女が遅れた理由を尋ねるとスリンは不敵な笑みを浮かべた。彼女の言葉にワンとゴーノは違和感を抱き、彼女の告げた準備という言葉が気にかかる。
スリンはワンとゴーノの前に立つと、彼女は持って来た鞄に手を伸ばす。それを見たワンとゴーノは何を取り出すつもりかと不審に思うと、スリンが取り出したのは仮面だった。
「これを見て頂戴」
「何だそれは……」
「仮面、か?」
「ええ、といってもただの仮面じゃないわ」
鞄から取り出されたのは顔全体を覆い込む仮面であり、目元の部分は水晶が嵌め込まれていた。彼女は何を想ったのか仮面を顔に装着すると、それを見たワンとゴーノは呆気に取られる。
『どうかしら?』
「どう……と言われてもな」
「き、貴様!!この状況で何をふざけて……」
『別にふざけているわけじゃないわよ。それとワン、前々から貴方に言いたいことがあったんだけど……』
「何をっ……!?」
奇妙な仮面を取り出したかと思えば目の前で装着したスリンにワンとゴーノは戸惑うが、そんな二人に対してスリンは仮面越しに視線を向けると、彼女は鞄の中に隠していた物を取り出す。
『貴方、上に立つ人間の器じゃないわよ』
「なっ!?」
「これは!?」
スリンが取り出したのはラフレシアのような葉を生やした花であり、それを見たワンとゴーノは即座に離れようとしたが、その前にスリンは花を地面に落とす。
地面に落ちた途端に花は根を張って花びらを開き、大量の花粉を巻き散らす。咄嗟にワンとゴーノは鼻と口元を抑えるが、スリンは彼等二人に言い放つ。
『無駄よ。この花の恐ろしさは貴方達がよく知っているでしょう?』
「ス、スリン……何の真似だ!?」
「貴様、裏切る……げほっ、ごほっ!?」
花粉を吸い込んだワンとゴーノはその場で激しく咳き込み、その様子を見ていたスリンは仮面越しに二人を見下ろす。彼女が取り出した花は盗賊ギルドが拷問用に使用する特別な植物であり、
この花の花粉を吸い込んだ人間は花粉症でない人間だろうと激しく咳き込み、鼻水と涙が止まる事はない。花から離れれば助かるが花粉を吸い込んだ人間は激しい咳とくしゃみのせいで正常な判断ができずに身動きが取れない。
「げほっ、げほっ……うおぇえええっ!!」
「ぐふぅっ……スリン、貴様ぁっ!?」
『悪く思わないで頂戴、これも生き残るためなのよ』
ワンとゴーノが花粉で苦しんでいる様を見届けると、スリンはマッチを取り出して地面に根を張った花を燃やす。火を灯した瞬間に花は一気に燃え広がり、やがて完全に消えてなくなる。
大量の鼻水と涙で脱水症状を引き起こしたワンとゴーノが地面に倒れ、それを確認した彼女は仮面を取り外す。盗賊ギルドが栽培した花は簡単に燃えるように細工されており、花さえ消えれば花粉はすぐに消えてしまう。
「良い様ね」
「お、お前ぇええっ……!!」
「何を、考えている……!?」
倒れた二人はスリンを恨みがましく睨みつけてくるが、そんな彼等に対してスリンは背中を向けた。そして彼女は跪くと、遠くから歩いてくる人物に頭を下げる。
「終わりました、マリア様」
「ええ、よくやったわね」
「な、にぃっ……!?」
「マ、マリア……!?」
――倒れたワンとゴーノの視界に現れたのは杖を握りしめたマリアだった。彼女がこの場所に現れた事に二人は理解が追いつかず、どうして盗賊ギルドの隠れ家に彼女が現れたのか理解できなかった。
最初の内はワンもゴーノも頭が回らずに混乱していたが、すぐにマリアの前に跪くスリンを見て二人はある結論に至る。スリンは七影の一角でありながら盗賊ギルドを裏切ってマリアと結託し、自分達を嵌めたのだと知ると激高した。
「貴様ぁっ……裏切ったのか!!」
「うぐっ……げほっ、げほっ!!ス、スリン……俺達を売ったのか!?」
「人聞きが悪いわね……そもそも私は最初から貴方達の仲間になった覚えはないわよ」
「な、何だと!?」
スリンは悪びれもせずに倒れている二人に振り返り、冷たい瞳で見下ろす。そんな彼女の横にマリアは立つと、地面に倒れて動けない二人に対して淡々と告げた。
「七影のワンとゴーノね?こうしてちゃんと顔を合わせるのは初めてかしら?」
「ぐっ……!!」
「おのれ……お前等、殺してやるぅっ!!」
ワンとゴーノはマリアを前にして激しい憎悪と怒りを抱き、彼女の罠に自分達が嵌められたと知った。最初からスリンはマリア側に付き、自分達を裏切ってマリアに売ったのだと確信すると、ゴーノは最後の力を振り絞って二人に襲い掛かろうとする。
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