第334話 スリンの正体

「うおおおおっ!!」

「マリア様!?危ない!!」

「平気よ」



ゴーノがマリアに飛び掛かろうとするのを見てスリンは声を上げるが、彼女はゴーノに大して指先を向けた。すると彼女の指先に風の魔力が集まり、抱きつこうとしてきたゴーノに向けて人差し指を伸ばす。


接近してきたゴーノに大してマリアは人差し指を突きつけると、ゴーノの胸元に押し付けられた指先から強烈な風圧が発生してゴーノを吹き飛ばす。



「ぐああああっ!?」

「ゴ、ゴーノ!?」

「きゃっ!?」



傍から見ればマリアが指一本でゴーノの巨体を吹き飛ばしたようにしか見えず、ゴーノの巨体が地面に倒れ込む。それを見たマリアは何事もなかったかのようにスリンに声をかける。



「他の七影はここにはいないのね?」

「えっ!?あっ……は、はい。ここにいるのはこの二人だけです」

「ば、馬鹿な……スリン!!貴様、本当に我等を売ったのか!?」

「ぐふぅっ……!?」



ワンとゴーノは憎々し気にスリンを睨みつけるが、そんな二人に対してスリンは鼻を鳴らして自分の正体を話す事にした。



「スリンね……あんた達、本当に気づいていなかったの?」

「な、何だと!?」

「ど、どういう意味だ……?」

「こういう事よ」



スリンは自分の顔を両手で掴むと、唐突に皮膚がただれていく。それを見たワン達は驚愕するが、やがて皮膚が破けると内側から見知らぬ女性の顔が登場する。



「ふうっ……これでどうかしら?」

「お、お前は!?」

「だ、誰だ!?」



どうやらスリンだと思われた人物は変装をしていたらしく、本物の正体は若い女性だった。実を言えば彼女はマリアの元で指導を受けていた魔法学園の元生徒であり、3年前までは生徒会長を務めていた人物でもある。



「エルマ、見事な変装だったわ。流石は黄金の鷹の団長ね」

「いいえ、全てはマリア様のお陰です。私がした事なんて大した事はありません」

「ど、どういう事だ!?誰だお前は!?」

「何者だ!?本物のスリンはどうした!?」



スリンに化けていたのは魔法学園の元生徒会長であり、現在は黄金の鷹の団長を務める「エルマ」という女子生徒だった。彼女はリンダと同様にエルフであり、マリアとは昔から付き合いがあった。


エルマは変装を得意としており、彼女はスリンに化けてワンとゴーノに近付いた。二人はまんまとエルマに騙されて罠に嵌められた事を知ると、本物のスリンがどうなったのかを聞く。



「何時からスリンと入れ替わっていた!?」

「安心しなさい、私がこの変装をしたのは今日が初めてよ」

「くっ……スリンはどうした!?」

「今頃は監獄よ。あの女は私に取引を仕掛けてきたけど、私は犯罪者には甘くはないわ」



ワンとゴーノの言葉にマリアは数日前の出来事を思い返し、彼女は何があったのかを二人に語る――






――盗賊ギルドの幹部であり、娼館の経営を行うスリンは狡猾な女だった。彼女は盗賊ギルドが本格的にマリアを暗殺するために動き出している事に気付き、即座に彼女はマリアと接触を計る。


七影でありながらどうしてスリンはマリアに計画を漏らしたのかというと、彼女は実は前からマリアと繋がりがあった。マリアはスリンを通して盗賊ギルドの内部情報を掴み、それの対応を行っていた。


実を言えばマリアは過去にスリンを追い詰めた事があり、彼女は必死に命乞いをした。自分が助かるために彼女は七影の立場を利用し、盗賊ギルドの情報を流す事を条件に見逃して貰う。マリアはスリンの条件を受け入れ、これまでも定期的に情報を受け取っていた。



『マリア様、七影のリクが不穏な動きを取っています。ワンの方からも私に連絡が届きました、ゴーノと共に手を組まないかと……』

『なるほど……遂に私の事が目障りになって殺すつもりね』



スリンはワンがゴーノと共に手を組んで他の七影の始末を考えている事もマリアに伝え、彼女の報告を受けたマリアは敢えて盗賊ギルドの好きにさせる事にした。スリンを通して自分の暗殺計画の全容を知った彼女は対策を行う。



『どうやらリクはマリア様の姪を攫い、彼女を利用してマリア様の暗殺を計画しているとか……』

『……そう、ならもう手加減する必要はないわね。計画の実行日を教えなさい』

『ひっ……!?』



ミイナを狙っていると知ったマリアは静かな怒りを滲ませ、スリンに計画が実行される日付を問い質すと、彼女は万全の準備を整える。


魔法学園の女子寮には彼女が最も信頼するバルルを一日限りの「寮母」として待機させ、女子生徒にだけは襲撃が訪れるかもしれないと警告をしておく。この時に彼女は襲撃を企んでいるのは魔法学園の生徒を狙う不審者だと伝え、盗賊ギルドの関係者である事は伏せておく。


生徒会の面子も魔法学園内に不審者が入り込む可能性がある事を伝え、自分が不在の間は生徒会長のリンダに学園の守護を任せる。それが功を奏してリンダは脱走した七影のブラクを討ち取る。

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