第332話 黄金級冒険者ライゴウの実力

「くそっ!!何でだ、どうしてこんな事になった!?」

「なあ、どうするんだよ……俺達だけで作戦を果たすのは無理だろ」

「他の奴等と合流するか?」

「いや、もうやられた可能性が高い……見ろよ、もう煙も見えなくなったぞ」



本来の計画では獣牙団は城下町の各地に散って同時に放火を行い、城下町を混乱に陥れて王都の軍隊の注意を反らすのが彼等の役目だった。しかし、理由は不明だが作戦を開始してから彼等は謎の甲冑の騎士に攻撃を受けた。


甲冑の騎士はまるで傭兵達の行動を知っていたかのように待ち伏せし、一般人が暮らす地域の建物を燃やそうとした傭兵達を蹴散らす。残った仲間は5人だけとなり、これではもう作戦どころではない。



「と、とりあえずお頭の所へ逃げるか?まだあの偉そうなネカとかいう奴の屋敷にいるんだろ?」

「ああ、今頃も娼館の女を抱いている所だろ」

「馬鹿野郎!!お頭に何て報告するつもりだ!?作戦が失敗した何て伝えれば俺達の首が飛ぶぞ!!」

「だ、だけどここに残っても仕方ないだろ……」



コウガに報告に向かうべきか傭兵達は相談を始めるが、もしも作戦を失敗したと知ればコウガは部下であろうと容赦せずに処罰する。しかし、だからと言ってここに残っていてもいずれは甲冑の騎士に見つかってしまう可能性もある。



「お、俺は逃げるぞ!!もうこんな街に居られるか!!」

「そ、そうだな……逃げた方がまだ生き残れるかもな」

「だけど逃げると言ってもどうやって……だ、誰だ!?」



気配を感じ取った傭兵の一人が路地の入口に視線を向けると、他の者達も武器を構えた。獣人族である彼等は気配に敏感であるため、路地の入口に何者かが立っている事に気付く。



『……見つけたぞ』

「ひいっ!?」

「お、お前はさっきの……!?」



路地の前に立っていたのは甲冑で全身を覆い隠した人物であり、この王都で最も有名な冒険者でもあった。彼こそがのライゴウであり、この国一番の実力を誇る冒険者と言っても過言ではない。


ライゴウは背中に抱えた大剣を引き抜くと、刀身に電流が帯びる。彼は雷属性の魔法剣の使い手であり、彼の恐ろしさは傭兵達は先ほど思い知らされた。



「う、うわぁあああっ!?」

「逃げろっ!!早く行けっ!!」

「ひいいっ!?」

『愚かな……』



路地の奥に逃げ込もうとした傭兵達を見てライゴウは大剣を上段に構えると、勢いよく振り落とす。その結果、ライゴウの大剣の刀身に纏っていた電流が放出され、逃げ出した傭兵達に襲い掛かる。


まるで雷にでも打たれたかのような衝撃と電圧が傭兵達に襲い掛かり、路地裏に5人の傭兵の死体が倒れ込む。傭兵を相手にライゴウは容赦はせず、黒焦げの死体と化した傭兵を見下ろしてライゴウは大剣を背中に戻す。



『つまらん』



心底つまらなそうな声を上げながらライゴウはその場を立ち去った――






――同時刻、七影のワンは自分が所有する屋敷の裏庭にて険しい表情を浮かべ、彼の傍にはゴーノの姿もあった。ゴーノは巨人族用の杯に酒を注ぎ、黙々と酒を飲んでいたが、しびれを切らしたようにワンに声をかける。



「……スリンはまだ来ないのか?」

「くっ……あの女、何を考えている!?絶好の好機だというのに……!!」



ワンは自分と同じ七影のゴーノとスリンを取り込み、リクが仕掛けたマリアの暗殺作戦に乗じ、自分達以外の七影の抹殺を企んでいた。


拘束されているブラクはともかく、作戦の主導者のリクと彼に協力するネカはワンにとっては目障りな存在だった。特にネカはワンとほぼ同時期に盗賊ギルドに加入した男であり、昔から気に入らなかった。



「スリンはまだか!?」

「はっ……そ、それが娼館まで出向いたのですが何故かお姿がなく、娼館の女共も居場所を知らないとの事です」

「あの女、何を考えている!?くそっ、これでは計画が……」

「落ち着け、焦った所で何もいい事はないぞ」



ゴーノはワンに落ち着くように促し、そもそも彼等が動き出すのは本来ならばリクの作戦が終了した後だった。リクの作戦通りに行けば盗賊ギルドの最大の脅威であるマリアを殺し、その後にリクとネカを殺すのがワンの考えた計画である。


マリアをリクとネカが始末するまでは彼等も動けず、別に焦って行動を開始する必要はない。しかし、ワンは先ほどから不安を感じていた。まるで自分達が何者かの掌の上に転がされているような気分に陥り、どうしても落ち着かない。



(何故だ!?どうしてスリンは現れない!!まさかあの女、俺達を嵌めたというのか!?最初からリクやネカと繋がっていたのでは……)



約束の時刻を過ぎても姿を現わさないスリンにワンは苛立ちと焦りを抱き、こうなれば彼女ごと始末するべきかと考えた時、慌てた様子の部下が駆けつける。



「スリン様が到着されました!!」

「何!?」

「やっと来たのか……」



スリンが現れたという報告を聞いたワンとゴーノは立ち上がり、やがて二人の元にスリンが姿を現わす。彼女は悪びれもせずに裏庭に用意されていた椅子に座り、二人に笑みを浮かべる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る