第331話 まさかの裏切り

――同時刻、城下町の各地では獣牙団の傭兵達が放火を始めていた。彼等の目的は王国の軍隊をかく乱させるためであり、獣人族の持ち前の身軽さを利用して次々と建物を跳び移って燃やしていく。



「はははっ!!ここまで付いてきやがれ!!」

「ま、待て!!待たんかっ!!」

「のろまな人間共に俺達が捕まるかよ!!」



放火を行う獣人族に対して警備兵は彼等を捕まえる事ができず、生憎と普通の人間では獣人族の身体能力には及ばず、追いかける事もままならない。建物を跳び越えて移動する彼等を捕まえられる存在がいるとしたら同じ獣人族しか存在しない。


松明を片手に傭兵達は街中を駆け巡り、次々と建物を燃やしていく。警備兵は捕まえようとするが追いつく事もできず、このままでは城下町が燃やし尽くされてしまう。



「へへへっ!!いっその事、この王都を燃やし尽くすか!?」

「馬鹿野郎!!全部燃やしちまったら俺達の住むところもなくなるだろうが!!これが終わればこの国は盗賊ギルドが支配する事になるんだぞ!!」

「おっと、そうだったな……ぎゃあっ!?」

「ど、どうした!?」



逃走の際中に一人の傭兵が屋根の上に躓き、それを見た他の傭兵は立ち止まると、何故か転んだ傭兵の足にが食い込んでいた。



「がああああっ!?な、何だよこれぇっ!!」

「お、おい!!落ち着け、今すぐ外して……」

「うぎゃあっ!?」

「ぐああっ!?」



仲間の一人がを外そうとした時、他の者が悲鳴を上げて倒れていく。彼等が乗り込んだ屋根には複数のトラバサミが用意され、まるで誰かが屋根の上を通り過ぎる事を予測していたかのように罠が仕込まれていた。



「な、何だよこれ!?どうなってるんだ!!」

「お、おい!!誰か外せ!?」

「くそっ、動くな……うわっ!?」



トラバサミから逃れられた傭兵が仲間を助けようとした時、唐突に地上の方から光が放たれた。傭兵は下を見るとそこには矢を構えた警備兵の集団が存在し、その中には魔術師らしき人物も含まれていた。



「今です!!」

「よし、放てっ!!」

『はっ!!』



魔術師は杖を構えると光の球体を作り出し、屋根の上を照らす。そして獣牙団の傭兵達の姿が晒されると警備兵たちは弓を構えて矢を放つ。


本来であれば人間の放つ矢など獣人族でしかも戦に慣れている傭兵ならば避けるなど容易い。しかし、罠に嵌まった状態ではまともに動く事もできず、地上から放たれる無数の矢を避ける手段はなかった。




――ぎゃああああっ!?




街中に獣牙団の悲鳴が響き渡り、ただ一人だけ罠から逃れた傭兵だけは慌てて逃げようとした。仲間達を見捨てて傭兵の男は隣の建物に飛び込む。



「くそぉおおおっ!?」



矢に当たる前に傭兵は隣の建物に飛び込み、距離が開いていたので男は必死に屋根に手を伸ばす。だが、ここで男は屋根の端に槍の刃先のような刃物が並べられている事に気付き、掌に刃が突き刺さってしまう。



「ぎゃあああっ!?」



まるで屋根に飛び移ってくる事を予測していたかのように罠が仕掛けられ、傭兵は刃が突き刺さった状態でぶら下がる。そして屋根の上から人影が現れると、それを見た傭兵は顔色を真っ青にさせる。



「そ、そんな馬鹿な……どうしてお前が!?」

「うふふっ……」



屋根の上に現れたのは女性であり、獣牙団の傭兵も知っている顔だった。この都市に訪れた時に彼等は盗賊ギルドの幹部とも顔合わせしており、何よりも彼等が世話になった娼館の主だった。



――シチが亡くなった事で七影の中では唯一の女性となった「スリン」が傭兵の前に現れ、彼女は扇を片手に持って傭兵を見下ろす。




どうして盗賊ギルドの幹部であるスリンがこの場に存在するのか傭兵は理解できなかったが、彼は必死に助けを求めた。



「た、頼む……助けてくれぇっ!!」

「……醜いわね」

「うぎゃあああっ!?」



スリンは助けを求める傭兵に対して扇を振り払うと、突如として屋根に食い込んだ刃物に突き刺さっていた傭兵の腕が切り裂く。スリンが所有する扇は実は鉄扇であり、広げた状態ならば鋭利な刃物と化す。


何の躊躇もなく傭兵の腕を切り落として地上へと落下させたスリンは笑みを浮かべ、彼女はその場を立ち去った――






――その一方で別の場所では傷だらけの獣牙団の傭兵達が路地に追い込まれていた。彼等は怯え切った表情を浮かべて身を隠し、頭から受けた指令など実行できる状態ではなかった。



「な、何人やられた?」

「……知るかよ」

「俺達以外、もうやられたかもな……くそっ!!」



路地に逃げ込んだ傭兵達は5人しかおらず、他の傭兵は姿が見えなかった。彼等は最初は20人で行動を共にしていたが、突如として襲い掛かってきた謎の甲冑の人物によって仲間達がやられてしまう。


彼等は獣牙団の中では武闘派で腕っ節には自信がある者ばかりだった。だからこそ彼等は逃げ回りながら放火などという手ぬるい作戦は行わず、暴力で城下町の人々を襲って蹂躙するのが目的だった。しかし、唐突に現れた謎の甲冑の人物によって仲間の4分の3が仕留められた。

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