第330話 寮母

(あのガキの力を甘く見過ぎた……くそっ!!)



決して油断していたわけではないが、想像以上に成長していたマオにリクは悔しさを抱く。マオを倒すために用意したミノタウロスも魔斧も失ってしまい、彼にとっては最大の痛手を被る。


だが、彼の目的の半分は果たされた。ミノタウロスの出現によって学生寮の生徒達は混乱に陥り、時間稼ぎとしては十分な成果だった。欲を言えばマオを殺せばリクの目的は完全に果たされたが、そう簡単に倒せる相手ではない事はリクも理解していた。



(時間は十分に稼げた……後は奴等が上手くいくかどうかだな)



身体をふらつかせながらもリクは壁を伝って立ち上がり、誰かに見つかる前にその場を去った――






――同時刻、女子寮の前では獣牙団の傭兵達が集まっていた。彼等の目的は女子寮にいるはずのミイナを誘拐するためであり、彼女を攫えば盗賊ギルドの最大の脅威であるマリアを排除できる。



「へへっ……ここにいるのか」

「女のガキの臭いがぷんぷんするな……」

「ひひっ、ついでに何人か攫って行くか?」



傭兵達は女子寮の前にて下品な表情を浮かべ、彼等の指令は女子寮で眠っているはずのミイナの誘拐だけを言い渡されていた。しかし、女に飢えている傭兵達はついでに彼女以外の女子生徒を攫おうかと悩む。


これまでに捕まえた女を喰い漁ってきた男達だが、魔法を使える女性を相手に襲った事はない。傭兵達は魔法使いの女性というだけで興味を抱き、意気揚々と女子寮に入り込もうとした。



「ひひっ……一度、魔法を使える女を好きにしてみたかったんだ」

「へへへっ……かなりの人数がいそうだな」

「片っ端から襲ってみるのもありかもな……ははっ!!」



欲望のままに男達は女子寮に踏み込もうとした時、屋根の上から何者かが降り立つ。その人物は男達に目掛けて拳を振りかざし、炎を纏った一撃を放つ。




「――爆拳!!」

『ぎゃああああっ!?』




傭兵達が踏み込む寸前、上空から降り立った謎の人物が拳を地面に叩きつけると爆炎が発生して傭兵達を吹き飛ばす。何が起こったのか理解できずに傭兵達は地面に転がり込み、酷い火傷を負う。



「ぎゃあああっ!?」

「う、腕が……俺の腕がぁっ!?」

「ひいいっ!?」

「……何だい、歯ごたえのない奴等だね」



あっさりと倒れた傭兵達の姿を見て何者かは呆れた表情を浮かべ、近くに倒れていた傭兵の背中を踏みつける。負傷した傭兵達は自分達に不意打ちを仕掛けた相手を見て驚愕した。



「お、お前……誰だ!!」

「ふんっ……今日一日限りのここの寮母だよ!!」



傭兵達の前に姿を現わしたのはだった。彼女はご丁寧に「寮母」と名前が刻まれたエプロンを着込み、傭兵達の前で腕を組む。


寮母を名乗る謎の女の登場に傭兵達は衝撃を隠せず、事前の情報ではこんな寮母が存在するなど聞いてもいない。しかも先ほどの攻撃でバルルが魔法拳の使い手だと知り、動揺を隠せなかった。



「ふ、ふざけやがって!!よくも俺の腕を……殺してやる!!」

「馬鹿、止めろ!?」

「威勢がいいじゃないかい。そういう奴はいつもなら嫌いじゃないけどね……ガキに手を出そうとするくそ野郎は容赦しないよ!!」



傭兵の一人が激怒してバルルに襲い掛かったが、彼女は飛び込んできた男に対して掌を伸ばすと顔面を掴み取る。しかもその状態から右手の魔術痕を発動させ、炎を放つ。



「うぎゃああああっ!?」

「ひいっ!?」

「な、何て事を!?」

「おらぁっ!!」



バルルに顔面を直接掴まれて焼かれた男の悲鳴が響き渡り、それを見ていた他の傭兵は恐怖を抱くが、彼女は更に男を地面に叩きつける。顔面が焼けた男は痙攣して動かなくなり、バルルはそんな男に唾を吐く。


普段の彼女ならばここまで惨い事はしないが、バルルにとって子供に手を出そうとする悪党など微塵の情けもかける必要はない相手だった。彼女は右腕に炎を纏わせ、指を鳴らしながら残りの傭兵と向き合う。



「覚悟はいいかい、あんたら?」

「こ、このっ……」

「舐めるなよ!!たかが女一人に俺達がやられるか!!」

「一人?何を言ってんだい?」



傭兵達の言葉にバルルは鼻で笑うと、彼女は後ろにある学生寮を指差す。その行為に傭兵達は疑問を抱くが、すぐに彼女の行動の意図が判明した。



「あんたらの相手はあたし一人じゃない……ここにいる全員さ!!」

『えっ……?』



残った傭兵達は学生寮の建物に視線を向けると、いつの間にか視界内の全ての部屋の窓が開いていた。そして部屋の中から魔法学園の女子生徒が杖を構えた状態で待機しており、彼女達は冷たい瞳を向けていた。


状況を理解した傭兵達は顔色を青くすると、一目散に逃げ出そうとした。しかし、そんな彼等を逃がすはずがなく、バルルは指示を出す。



「あんたら、やっちまいな!!」

『はいっ!!』

『ぎゃああああっ!?』



次の瞬間、女子生徒達は無数の魔法を傭兵達に目掛けて発射させ、獣牙団の傭兵達の悲鳴が学園に響き渡った――






※壁|д゚)ヤベー ← 離れた場所から様子を伺う作者


この話は前半は書いてて胸糞悪かったですが、後半は楽しく書けました(笑)

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