第327話 炎斧
(氷柱弾をまともに受けて生きているなんて……!?)
これまでに氷柱弾を正面から受けて生き延びた相手など存在せず、あの赤毛熊でさえも仕留める事ができた。しかし、ミノタウロスは腹部に傷を負いながらも生き延びた。
ミノタウロスは負傷した腹を抑え、何を考えているのかマオを見つめる。マオは自分をじっと見つめてくるミノタウロスに違和感を覚え、何故だか相手の事をただの魔物とは思えない。
(何だ、この感覚……前にも似たような事があった気がする)
自分を観察する様に見つめてくるミノタウロスに対してマオは何年か前に同じような経験をした事を思い出す。この時にマオの脳裏に思い浮かんだのは学校を襲撃したガーゴイルだった。
(そうだ、思い出した!!あの時と同じだ!!)
ミノタウロスとガーゴイルは外見は異なるので気付くのに時間が掛かったが、マオはどちらの存在も魔物らしからぬ行動を取っているように見えた。普通の魔物のならば
まるで敵を警戒する様に不用意に動かず、相手の行動を観察して隙を伺うような行為は人間らしさを感じさせた。マオはミノタウロスの正体が何となくだが分かりかけた時、唐突にミノタウロスは手にしていた戦斧の柄を力強く握りしめる。
「ブモォオオオッ!!」
「なっ!?」
左手で戦斧の刃を掴み、反対の右手で柄を掴んだミノタウロスは刃と柄を押し込む。すると刃の中に柄が飲み込まれ、戦斧から手斧のように変化した。その直後、柄が短くなった斧に変化が訪れた。
(何だあれ!?)
斧に柄が飲み込まれた瞬間、斧の表面が赤く変色してミノタウロスは即座に手を離す。赤色の刃に変化した斧を見てマオは嫌な予感を覚え、一方でミノタウロスは負傷した腹に手を抑える。
先の氷柱弾の一撃でミノタウロスは深手を負い、いくら人間よりも高い生命力を持つ魔物であろうと怪我を負った状態ではまともに動けない。しかし、ミノタウロスは片方の角に手を伸ばすと、ここでマオはミノタウロスの角に何かが巻き付けられている事に気付く。
(あれは……まさか!?)
ミノタウロスの角に巻き付けられていたのは小袋であり、中身は緑色の液体が入った球体型の瓶が入っていた。それを見たマオは信じられない表情を浮かべ、ミノタウロスが取り出したのは回復薬である。
「ブモォオッ……!!」
「そ、そんな馬鹿な……!?」
回復薬を取り出したミノタウロスは傷口に回復液を流し込み、徐々に腹部の傷が塞がっていく。魔物が自ら回復薬を使用して怪我を治すのを見てマオは唖然とした。どれだけ知能が高い魔物と対峙しようと、まさか回復薬を持参して自身の治療を行う魔物など見た事も聞いた事もない。
回復薬で氷柱弾の負傷を治癒したミノタウロスはマオと向かい合い、改めて変色した斧を構えた。マオはミノタウロスの行動を見て遂に正体に気付く。
「そうか、そういう事だったのか……お前、魔物使いだな!?」
「…………」
マオの言葉にミノタウロスは無言を貫くが、その態度だけでマオはミノタウロスの正体が何者かに操られた魔物だと見抜く。そうでもなければ魔物が回復薬を使うはずがなく、装備している武器も恐らくは何らかの魔道具だと考えられた。
かつてマオは武器に魔法の力を宿す敵と戦った事もあり、恐らくだがミノタウロスの所有する武器は赤色に変色している事から火属性の魔力を付与したと思われる。もしも仮に敵の武器が火属性の魔力を宿している場合、マオにとっては都合が悪い。
(まずはあの武器の正体を確かめるんだ!!)
三又の杖を構えたマオはミノタウロスの位置を計り、杖の先端を回転させながら次々と氷弾を撃ち込む。
「
「ブモォオオオッ!!」
三又の杖から氷弾が連射され、無数の氷弾がミノタウロスの元へ迫る。それに対してミノタウロスは斧を盾代わりに利用して攻撃を防ぐ。
斧に氷弾が触れた瞬間、氷弾は溶けて蒸気と化す。魔法の氷を打ち消せるのは同じく魔法で造り出した炎しか有り得ず、これでミノタウロスの武器に火属性の魔力が宿っている事が判明した。
(やっぱり火属性の魔力を宿す武器だったのか!!という事は……相性は最悪だな)
マオの作り出す氷は水属性と風属性の魔力で構成され、彼の場合はエルフの血筋なので風属性の魔力の方が適性が高い。本来ならば水属性は火属性と相性はいいはずだが、風属性の場合は逆に火属性と相性が悪いが故にマオの魔法は火属性の魔法に弱い。
風属性の適性が高いが故にマオの生み出す氷の魔法は火属性の魔法の影響を受けやすく、鋼鉄を貫く威力を誇る氷弾を発射しても火の魔力を宿した斧には通じない。魔斧を手にしたミノタウロスは氷弾を受けながらもマオに向けて突進してきた。
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