第328話 氷の弱点
「フゥンッ!!」
「くっ!?
三又の杖から放たれる氷弾を全て魔斧で溶かしながらミノタウロスはマオの元に迫り、それを見たマオは咄嗟に氷板を作り出して空中へ逃げようとした。しかし、それを見越してミノタウロスは魔斧を振りかざすと、距離が開いているにも関わらずに全力で振り下ろす。
「ブモォオオオッ!!」
「うわぁっ!?」
魔斧が振り下ろされた瞬間に刃の部分が外れ、マオの元に目掛けて放たれた。斧の刃が外れるなど予想だにしなかったマオだが、驚きのあまりに足がもつれて地面に転び、運よく刃を躱す事ができた。
斧から放たれた刃は鎖が装着されており、柄の部分の中に鎖が収納されている事が発覚した。ミノタウロスはマオに斧の刃を避けられると鼻を鳴らして柄を引き寄せ、鎖が柄の中に収納されると刃も元に戻る。
(し、仕込み杖!?いや、仕込み斧か!?)
柄の部分に鎖を収納し、それを刃と繋ぎ合わせる事で射程距離を伸ばして攻撃をしてきた事にマオは動揺を隠せない。しかも彼が逃げようとした瞬間に刃を放った事が気にかかり、まるでマオの行動を呼んで最善の攻撃を仕掛けてきたとしか思えない。
(この魔物、やっぱり変だ!!まるで僕の魔法を知っているような……)
マオの氷の魔法とは相性最悪の火属性の魔斧を持ち、更には彼が空中に逃げても追撃できるように鎖を利用して魔斧の刃の射程距離を伸ばす。まるで自分と戦う事を前提に作り出された武器を持って現れたミノタウロスにマオは違和感を抱く。
しかし、考えている暇もなくミノタウロスは地面に倒れて体勢を崩したマオに目掛けて跳躍し、今度は上空から魔斧を叩きつけようとしてきた。
「ブモォオッ!!」
「くっ……はああっ!!」
咄嗟にマオは右手の魔術痕を利用して風の魔力を放ち、風圧を利用して位置を移動した。彼が氷以外の魔法を扱った事にミノタウロスは驚愕の表情を浮かべ、地面に刃が突き刺さった。
「ブモォッ!?」
「っ……!?」
風属性の魔術痕を刻んだマオはバルトやリオンのように巧みに風の魔法を扱えるわけではないが、風圧を発生させる程度の事はできる。本来であれば氷の魔法の強化にしか使わないのだが、ミノタウロスがマオが氷以外の魔法を使った事に驚いている様子を見て彼は考える。
(何だ?僕が風の魔力を操ったから驚いているのか?という事は……こいつ、僕が氷の魔法しか使えないと思い込んでいるのか)
マオはミノタウロスの驚き様を見てある考えに至り、恐らくだがミノタウロスは何者かに操られている。以前にも魔物使いが使役する魔物と戦った事があるのでマオは目の前のミノタウロスも何者かが遠隔操作で操って戦っているのだと気付く。
ミノタウロスを操る存在にマオは心当たりがあるとすれば以前にガーゴイルを操作して襲った相手ぐらいしか思いつかない。そして相手はマオが氷の魔法の使い手だと見抜いているが、彼が厳しい修行の末に風属性の魔力も多少は操れるようになった事は知らない様子だった。
(氷以外の魔法は対策していないみたいだな……でも、僕の風の魔力だけでどうにかなる相手じゃない)
バルトやリオンならばともかく、マオの場合は風属性の魔力を操る事はできても攻撃魔法として利用する域には達していない。二人のように「スラッシュ」や「スライサー」のような魔法はマオには扱えず、氷の魔法を補助する程度の事しかできない。
(やっぱり、氷の魔法で戦うしか……待てよ?あの武器、もしかしたら……)
ミノタウロスが所有する魔斧は火属性の魔力を刃に宿しており、それを見たマオはある考えを思いつく。しかし、この方法を試すには相手に近付く必要があり、最悪の場合は杖を犠牲にしなければならない。
それでも今の状態で戦っても勝ち目が薄いと判断したマオはミノタウロスに接近し、一か八かの賭けになるがミノタウロス本体ではなく、魔斧を狙って攻撃を仕掛ける。
「うおおおおっ!!」
「ブモォッ!?」
自ら突っ込んできたマオに対してミノタウロスは驚愕するが、すぐに魔斧を構えて横向きに振り払おうとする。それをみたマオはミノタウロスが攻撃を仕掛ける前に三又の杖を前に突き出して再び魔光を放つ。
「喰らえっ!!」
「ッ――!?」
三又の杖から魔光が放たれると、先ほどのように目眩ましの閃光に利用する。しかし、今度はミノタウロスの方も警戒していたのか瞼を閉じても構わずに斧を横向きに振り払う。
「ブフゥッ!!」
「うわぁっ!?」
魔斧の刃を再び発射させ、限界まで刃の射程距離を伸ばした状態で魔斧を振り払う。この時にミノタウロスはマオの悲鳴を聞き、瞼を閉じた状態ながらも彼を仕留めたと確信した。
だが、ミノタウロスが瞼を開くとそこには予想外の光景が映し出されていた。それは何時の間にか
マオは三又の杖で魔光を放つ際、左手に隠し持っていた小杖で氷板を作り出して空中に逃れていた。しかし、瞼を閉じていたミノタウロスはそれに気づかずに攻撃を仕掛けてしまい、上空に逃げたマオに刃は届くはずがなく、彼はミノタウロスに迫る。
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