第325話 暴獣ミノタウロス

「あいてっ!?」

「げふぅっ!?な、何だぁっ!?」



マオは運よく下の階の部屋の住民のベッドの上に落ち、怪我を負わずに済んだ。しかも部屋の住民はどうやらバルトだったらしく、彼はパジャマ姿で上から落ちてきたマオに心底驚いた表情を浮かべた。



「マ、マオ!?お前、何してんだ!?」

「先輩、説明は後で!!それよりも早く杖を!!」

「はっ!?いったい何を……」

『ブモォオオオッ!!』



バルトはいきなり天井を破壊して降ってきたマオに驚くが、彼に対してマオは杖を早く用意するように告げて自身も三又の杖を構えた。その直後に学生寮内にミノタウロスの咆哮が響く。


どうやらミノタウロスは勢い余って一階まで落ちたらしく、バルトの部屋には巨大な穴ができあがった。それを見たマオは杖を構えると、ミノタウロスは一階から跳躍してバルトの部屋に乗り込む。



「ブモォオオオッ!!」

「な、何だぁっ!?この化物は!?」

「先輩、下がって!!」



ミノタウロスが穴の中から出てきた途端、バルトはベッドから転げ落ちた。そんな彼を庇うようにマオは立つと、三又の杖を前に構えて氷塊を作り出す。三つの氷塊を作り出して結合させる事で氷の盾を作り出す。



「ブモォオオオッ!!」

「くぅっ!?」

「ひいっ!?」



狭い部屋の中でも構わずにミノタウロスは斧を振りかざし、氷の盾に刃が衝突して激しい金属音が鳴り響く。現在のマオの作り出す氷塊の硬度は鋼鉄を遥かに上回る硬度だが、それでも一撃受けただけで氷塊全体に亀裂が走る。



(なんて威力……ガーゴイルやゴーレム以上だ!?)



これまでに戦ったどんな魔物よりも強烈な一撃を放つミノタウロスにマオは焦りを抱き、このままでは確実に次の攻撃で氷の盾は破壊される。そう考えたマオは敢えて氷の盾の後ろから杖を構えた。



乱射ガトリング!!」

「ブモォッ!?」

「うわぁあああっ!?」



自ら作り出した氷の盾を敢えてマオは破壊し、三又の杖の先端部を回転させながら次々と氷弾を撃ち込む。氷の盾が視界を封じてマオの行動を見抜けなかったミノタウロスは彼の放つ無数の氷弾を受けて交代する。


現在のマオの氷弾の威力はオーク程度の魔物ならば急所に撃ち込めば一発で仕留められるが、ミノタウロスは氷弾を受ける際に身を固め、次々と氷弾を跳ね返す。ミノタウロスの皮膚の硬さはオークの比ではなく、回転を加えて威力を高めた氷弾さえも通じない。



(氷弾が通じていない!?何て奴だ……でも、このまま押し切る!!)



氷弾が効いていない事に気付いてもマオは攻撃を止めず、氷弾を撃ち込み続ける限りはミノタウロスも防御に専念せねばならず、反撃の隙も与えない。その間にバルトは部屋の中に置いていた杖を手にした。



「マオ、頭を下げろ!!俺がぶっ飛ばす!!」

「はいっ!!」

「ブモォッ!?」



バルトの言う通りにマオは体勢を屈めると、彼は杖を構えてミノタウロスに目掛けて魔法を放つ。彼は無詠唱でスラッシュを発動させ、風の刃がミノタウロスの巨体を学生寮の外へ吹き飛ばす。



「吹き飛びやがれ!!」

「ブモォオオオッ!?」



ミノタウロスはバルトの魔法を受けて窓から外へ吹き飛び、その光景は他の生徒達も目撃した。何が起きているのか分からず、生徒達は突如として現れた牛の化物に驚く。



「な、何だ!?」

「あれ、もしかして授業で見た……ミ、ミノタウロス!?」

「なんで魔物がここに!?また逃げ出したのか!?」

「落ち着け!!全員、戦闘準備を整えろ!!」



取り乱す生徒達に対してバルトは窓から身を乗り出して指示を出す。一方でマオはミノタウロスの様子を伺い、今ならば追撃の好機だと判断する。


建物から吹き飛ばされたミノタウロスは無傷のままであり、バルトの中級魔法でさえもミノタウロスを傷つけるには至らない。恐らくはマオが遭遇した魔物の中では「最強」と言っても過言ではなく、これほどの力と頑丈さを誇る魔物は見た事もない。



(ミノタウロス……師匠の授業で習った事はあるけど、聞いていた話よりも凄い)



授業の一環で魔物に関する知識も深める「魔物学」と呼ばれる授業がある。この魔物学では各種の魔物の生態を説明が行われ、その中にはミノタウロスも含まれていた。


冒険者時代にバルルは実際にミノタウロスと戦った事があり、彼女によればオークやコボルトなど比べ物にならない戦闘力を誇るという。何度か彼女も戦った事はあるが、単独でミノタウロスを相手にした事はないらしく、常に仲間達と共に戦っていたという。



『ミノタウロスの厄介な所は強い癖に頭がいいんだよ。ゴブリンも人間のように武器を扱うけど、奴らはさらに人間のように戦う度に戦闘技術も磨くんだよ。だから長生きしているミノタウロスほど優れた戦闘技術を持っている事が多い。できればもう二度と戦いたくはない相手だね……』



強気なバルルでさえもミノタウロスと戦う事は恐れており、彼女は一度たりとも単独でミノタウロスと戦った事はない。それはつまり、彼女ほどの実力者でも一人ではミノタウロスには勝てない事を意味している。

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