第324話 魔物使いの本領
「お前はここに残るつもりか?」
「そうだ……ここでなければ駄目だ」
「どういう意味だ?」
「……大物を操る場合、距離が遠すぎると上手く操作できないのでな」
「何!?まさか、貴様……あの術を!?」
ネカはリクの言葉に動揺を隠せず、一方でリク自身も冷や汗を流していた。これから行うのは魔物使いの間では「禁忌」とされる術であり、最悪の場合は彼は死んでしまうかもしれない。
かつてリクは複数の魔物を魔法学園に送り込んだ。魔物使いである彼は契約紋を刻んだ魔物を操る事ができるが、人間よりも知性が低い魔物を操作するのは容易な事ではない。
しかし、マオを倒すためにリクは最強の魔物を用意した。知能、力、耐久力、あらゆる面において彼がこれまで使役してきた魔物とは一線を画す最強の魔物を連れてきていた。但し、この魔物を意のままに操るためにはリク自身も危険を冒さなければならない。
「行け、ネカ……後の事は任せたぞ」
「貴様……死ぬ気か?」
「馬鹿を言え、俺は死なん……あいつを殺すまではな」
復讐の炎を瞳に宿したリクを見てネカは彼を引き留められないと判断し、深い溜息を吐きて立ち去る。その様子を見送ったリクは小袋を取り出す。
「まさかこいつを使う時が来るとはな……」
小袋の中身は灰が入っており、この灰は魔物の死骸を燃やした際にできあがった灰だった。リクは屋外では風に吹き飛ばされる恐れがあるため、城壁の中に入って準備を行う。
「お前の出番だぞ、相棒」
「…………」
既に城壁の中にはリクが兵士と手引きして運び出した魔物の檻が運び込まれていた。檻の周りには兵士の死体が並んでおり、どうやら運び込む際に隙を突かれて死んでしまったらしい。
リクが用意した魔物はガーゴイルすらも相手にならず、この魔物ならば確実にマオを殺せると彼は確信していた。灰を床にちりばめたリクは魔法陣を築き上げ、その上に座り込む。
かつてリクは遠隔から契約した魔物を操作した事はあったが、今回の場合は操る魔物は1体だけであり、自らが魔法学園内に忍び込んだ。どうして危険を冒してまで入り込んだのかというと、これだけの事をしなければ目の前の魔物は完全に操る事はできないからである。
「行け……全力で暴れて来い!!」
魔法陣の上で目を閉じたリクは意識が失ったように項垂れたまま動かなくなると、彼の目の前で檻に閉じ込められた魔物に異変が生じた。額に契約紋が浮き上がり、突如として苦しみもがく。
――ブモォオオオオッ!!
城壁内に魔物の鳴き声が響き渡り、目を見開いた魔物は鉄格子の檻を掴む。力ずくで魔物は鉄格子を折り曲げると、魔法陣の上に座り込むリクを一瞥して何もせずに通り過ぎる。
「フゥッ……フゥッ……!!」
最強の魔人族「ミノタウロス」が遂に解放され、事前に用意されていた武器に視線を向けた。リクは巨人族が扱う巨大で頑丈な戦斧を用意しており、それを手にしたミノタウロスは軽々と持ち上げる。
巨人族が扱う武器を手にしたミノタウロスは城壁の壁に目掛けて刃を振りかざし、一撃で壁を破壊した。魔法学園の城壁は魔術師の攻撃魔法にも耐えられるように設計されているはずだが、ミノタウロスは尋常ではない怪力を発揮して壁を破壊して学園内に乗り込む。
「ブモォオオオオオッ!!」
外に出た瞬間にミノタウロスは咆哮を放ち、その咆哮は学園内に響き渡る。そして最初にその声を聞いたのは学生寮の外に居たマオだった――
――マオは学生寮の屋上にて今まで聞いた事もない咆哮を耳にして戸惑い、何故だか身体が震え上がった。これまでも恐ろしい魔物の鳴き声は何度も耳にしてきたが、今回の場合は彼は鳥肌が立つほどに不気味な鳴き声に聞こえた。
「何だ、今の……!?」
ミノタウロスの鳴き声を耳にしたマオは冷や汗を流し、学生寮の生徒達も目を覚まして窓に次々と光が灯る。いったい何事かと窓を開いて外の様子を確かめる生徒も居た。
「な、何だなんだ!?」
「今の声、何だよ!?」
「まさか、また魔物が襲ってきたのか!?」
「嘘だろ!?おい、誰か先生を呼んで来いよ!!」
学生寮のあちこちの窓が開かれて男子生徒達が騒ぎ出し、嫌な予感を覚えたマオは学生寮の屋上から降りようとした。しかし、彼が屋上を降りる前に夜空の満月に異変が生じる。
マオが氷板を作り出して地上に降りようとした瞬間、彼の頭上に影が差す。不思議に思ったマオは空を見上げると、そこには満月を背に巨大な斧を振りかざすミノタウロスの姿があった。
「ブモォオオオオッ!!」
「うわぁっ!?」
上空から斧を振りかざしてきた牛の化物を見てマオは驚き、咄嗟に彼は後ろに跳んだ。ミノタウロスは構わずに斧を振り下ろした瞬間、学生寮の屋根に強烈な衝撃が走った。
『うわぁあああっ!?』
学生寮全体が震える程の強烈な振動が走り、屋根の一部が崩壊して男子生徒達の悲鳴が響き渡る。マオとミノタウロスは屋根が崩壊したために下の階に落ちてしまう。
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