第323話 復讐の時

「――時間だ、やれ」

「分かっている」



時は少し前に遡り、魔法学園の城壁の上にリクとネカの姿があった。彼等の傍には他にも複数名の獣人族が配置し、そして倒れている無数の兵士の姿があった。


既に魔法学園の守備を任された兵士達は始末され、獣牙団と共にリクとネカも侵入していた。リクは魔法学園の校舎を見つめ、この学園にシチを殺した少年が通っている事を思うと怒りを抑えきれない。



(仇は取るからな……)



リクはシチの形見である短剣を取り出し、彼は相棒の仇を今日中に討つ事を誓う。既に日付は変わっており、彼等は作戦を開始した。



「合図を出せ!!」

「あいよ!!」



指示を受けた獣牙団の傭兵は筒状の魔道具を取り出し、筒を回すと内臓されていた火属性の魔石が反応し、炎の塊を上空に放つ。まるで花火の如く炎塊は空中で飛び散ると、それを確認したリクは周囲を見渡す。


城壁から魔法の花火が打ちあがった瞬間、城下町のあちこちで次々と花火が打ちあがる。これによって眠りについていた街の人々も目を覚まし、混乱を引き起こす。



「さあ、宴の始まりだ!!」

「…………」



次々と街中で花火が打ちあがった事で城下町の住民は大混乱に陥り、中には建物を出てくる人間も大勢存在した。もしも警備兵が動き出したとしても城下町の住民が邪魔となって上手く動く事はできない。



「お前達も早く行け」

「へへっ……約束は忘れないでくださいよ」

「言っておきますけど、俺達を見捨てようとしたらお頭が黙ってねえからな」

「分かっている、いいから早く行け……狙いは間違えるなよ」



城壁に集まった傭兵の目的は学園内に存在するはずの「ミイナ」という名前の女子生徒を誘拐する事だった。彼女こそが学園長の最大の弱みであり、ミイナを捕まえればマリアの動きを封じられる。




――リクの調査ではミイナの正体はマリアの姪であり、実は彼女にはの姉とその娘が居た事は既に突き止めていた。姉が亡くなった後にマリアはミイナの事を本物の娘のように大切に育てており、もしも彼女を人質にすれば如何にマリアとえいども逆らう事はできない。


ミイナの存在は今まで隠蔽されていたが、とあるの協力のお陰で彼女の正体が判明した。しかし、ミイナを捕まえるにしても彼女の傍には常にマオが居た。シチを殺したマオの事をリクは恨んでいたが、彼はもうただの子供ではない。


シチを打ち破り、更にはブラクを倒したマオの事をリクは最大限に警戒していた。何としても殺したい相手とはいえ、敵の実力を見誤るようでは盗賊ギルドの幹部など勤まらない。だからこそ彼は万全の準備を整えて学園に強襲した。



「さあ、行け!!成功すればお前達に100枚の金貨をくれてやる!!」

「よし、行くぞ!!」

「約束したからな!!」

「忘れるなよ!!」



金貨100枚という大金の報酬に目を眩んだ傭兵達は城壁を飛び降りると、真っ先に学生寮の女子寮に向かう。女子寮と男子寮は正反対の位置に存在し、傭兵達は獣人族の特徴を生かして俊敏な動作で女子寮へと向かう。



「金貨100枚とは随分と大判振る舞いだな……払う当てはあるのか?」

「金貨?笑わせるな、あの程度の連中に捕まる相手じゃない。学園長マリアも馬鹿じゃない、ミイナの傍には護衛を付けているだろう……だが、それでいい」

「なるほど、奴等は囮に使うという事か」



ネカはリクの言葉を聞いて最初から彼は獣牙団の傭兵に期待などしていない事を知った。リクの目的はあくまでもであり、ミイナの事などどうでも良かった。


獣牙団の傭兵にミイナを襲撃に向かわせたのはマリアの注意を獣牙団に向けさせるためであり、まだ彼女は盗賊ギルドが動き出した事は気付いていない。正確には盗賊ギルドが暗躍している事は知っているだろうが、それでもまさか全ての幹部が動き出している事までは予測していないはずである。


既に獣牙団は魔法学園だけではなく、城下町にて騒ぎを起こしているはずだった。もしもマリアがミイナが獣牙団に狙われた事を知れば、街中に散らばった獣牙団の掃討に専念するはずだった。その間は魔法学園の警備も疎かとなり、リクはマオを殺す機会を得られる。



「ネカ、お前はもう行け。お前はここに居ても何の役にも立たないだろう」

「言ってくれるな……誰のお陰でここまで作戦の準備を整えられたと思っている」

「分かっている。この作戦が終わればお前は盗賊ギルドの支配者だ」



ネカの協力を得るためにリクは作戦の成功後は彼に仕える事を約束した。作戦が成功すれば残された七影は彼と自分だけとなり、他の七影もこの作戦の間に始末する準備は整えてある。しかし、リクが真っ先に殺したい相手はマオだった。

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