第322話 教師として……
「サンダーランス!!」
廊下に任せの声が響き渡り、彼の杖から電撃が放たれた。マカセは雷属性の魔法の使い手でもあり、二人に目掛けて電撃を放つ。影の触手に四肢を拘束されたリンダは目を見開き、ブラクは勝利を確信した。
しかし、放たれた電撃はリンダを通り過ぎると無褒美のブラクの元へ向かう。ブラクはまさか自分の元に電撃が放たれるとは予想できず、影の触手をリンダに放っていた事が仇となった。
「ぐああああっ!?」
「きゃっ!?」
「ぐふぅっ!?」
ブラクが電撃を浴びた瞬間にリンダを拘束していた影の触手が消え去り、その直後にマカセも口元を抑えて倒れ込む。いったい何が起きたのかリンダは理解できず、黒焦げと化したブラクはマカセを血走った目でマカセを睨みつける。
「馬鹿、が……」
「ぶふっ……うおぇえええっ!!」
「先生!?」
マカセは口元を抑えていたが、やがて耐え切れずに嘔吐する。この時に彼の身体から黒蟲が出現し、それを見たリンダは顔色を青くする。
これまではブラクの影魔法で卵ごと封じられていた黒蟲だったが、ブラクが魔法を受けた際に彼はマカセの体内に潜ませていた黒蟲を解放した。その結果、体内を食い荒らされたマカセは黒蟲を吐き出す。
――キィイイイッ!!
体内から解放された黒蟲はリンダの元へと迫り、彼女はそれをみて咄嗟に右腕に竜巻を纏わせ、飛びついて来た黒蟲を手刀を放つ。
「はあっ!!」
「ギエエエエッ!?」
リンダの放った手刀を受けた瞬間に黒蟲は粉々に吹き飛び、それを確認したブラクは虚ろな目で動かなくなった。黒蟲が死んだ瞬間にブラクも意識を失い、残されたのは血を吐き続けるマカセとリンダだけとなった。
「ぐふっ……げほっ、げほっ!!」
「先生!!大丈夫ですか!?」
「く、来るな……もう、助からない」
マカセの元にリンダは向かおうとしたが、彼は苦笑いを浮かべて自分の胸元を抑えつけた。黒蟲を吐き出す際に体内を無茶苦茶に食い荒らされたマカセは自分はもう助からないと判断し、彼は壁に背中を預けてリンダに離れるように告げた。
「先生、どうして……」
「ははっ……俺の事は気にしなくていい。これは裏切り者の末路だ」
「裏切り者?先生が……」
事情を知らないリンダはマカセの言葉に戸惑い、彼女からすればマカセは自分を助けてくれたとしか思えなかった。実際にマカセの魔法でブラクは撃ち抜かれ、もう目を覚ます事はないだろう。
ブラクを倒した事でマカセは自らの体内に封印された黒蟲を開放してしまった。それでもマカセは生徒であるリンダを助けられた事に安堵し、彼は震える手で懐に手を伸ばす。
「こ、これを……学園長と、バルルに渡してくれ……!!」
「先生、これは……」
「頼んだぞ……最後の、頼みだ……」
「……分かりました。必ずお渡しします」
マカセは取り出したのは手紙であり、リンダに手渡すとマカセは満足そうな表情を浮かべて目を閉じた。彼はブラクと繋がって学園に危機をもたらしたのは事実だが、それでも最後は教師として生徒を守ろうとした。
リンダは手紙を受け取ると動かなくなったマカセを見下ろし、彼の顔に手を伸ばして瞼を閉じさせる。改めてリンダは覚悟を決めた表情を浮かべると、マカセから託された手紙を学園長の元に届けるためにその場を離れた――
――同時刻、マオは学生寮の自分の部屋で目を覚ます。何故だか分からないが彼は嫌な予感を抱き、すぐに旧式の学生服を着こむ。
(何だろう……落ち着かない)
学生服に着替えたマオは時計を確認してまだ深夜である事を確認し、彼は窓から外に飛び出す。外に出るとマオは魔法を発動させ、氷板を作り出して浮上した。
氷板に乗り込んだマオは学生寮の屋根の上に移動すると、周囲を見渡して誰にもいない事を確認する。彼は屋根の上に降り立つと、満月を見上げた。
「綺麗だな……」
何となく外に出向いたが特に異変は見当たらず、安堵したマオは部屋に戻ろうかと考えた。だが、彼が部屋に戻ろうとした瞬間、思いもよらぬ事態が発生した――
※最終決戦間近です。
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