第321話 黒狼
ブラクは漆黒の狼に変化すると、姿だけではなく本物の狼の様に駆け出す。ブラクの影は彼の意志で自由自在に動かす事ができるため、黒狼は瞬く間にリンダとの距離を開く。
廊下を駆けながらブラクは学校内の窓に視線を向け、普通の人間ならば窓を破壊して逃げ出そうとするだろう。しかし、生憎と魔法学園の窓は2年前に起きた事件から特殊な水晶財で構成されている。
学校内の全ての窓は魔法耐性が高い水晶に取り換えられてしまい、生憎と攻撃に特化しているわけではないブラクの影魔法では破壊はできない。物理攻撃で破壊するにも時間が掛かってしまい、彼はリンダから距離を置いてどうにか学校を脱出する術を探す。
(くそっ、この俺があんなガキに逃げる羽目になるとは……!!)
七影の一人として数々の敵を始末してきたブラクだが、まさか子供の魔拳士を相手に退散しなければならない事に悔しく思う。しかし、今は逃げる事に集中し、完全に体調を取り戻すまでは不用意な真似はできない。
ブラクが焦っているのはリンダに追い詰められているからだけではなく、いつマリアが戻ってくるのか分からないためだった。マカセを通じて彼はマリアが学園を離れている事を知っているが、それでもマリアという存在は油断ならない。
(くそくそくそっ!!どいつもこいつもこの俺を虚仮にしやがって……!!)
魔法学園に侵入してからブラクの計画は狂い始め、彼は心の中で悪態を吐きながら廊下を駆け抜ける。しかし、そんな彼の背後から突風が吹き溢れる。
「何処へ向かうつもりですか?」
『なっ……ば、馬鹿なっ!?』
後方から聞こえてきた声にブラクは影の中から確認すると、そこにはリンダの姿があった。彼女は足の裏から風圧を発生させる事で空中を駆け抜け、ブラクの背後にまで迫っていた。
「もう逃がしません!!」
『や、止め……!?』
「はぁあああっ!!」
ブラクの背後に追いついたリンダは拳を握りしめると、右腕に魔力を集中させて竜巻を纏う。この際に魔力を調整する事で緑色の魔光を放ち、黒狼の内部のブラクに目掛けて拳を振り下ろす。
「魔光拳!!」
『ぐああああっ!?』
名前の通りに魔光を纏った拳をブラクの顔面に目掛けて叩き込み、黒狼の身体が崩れ去る。影魔法で実体化させていた黒狼はリンダの一撃を受けて崩れ去った途端、ブラクの身体が廊下に転がり込む。
いかに影魔法が物理攻撃に対して無敵を誇ろうと、光を纏う攻撃に対しては無力だった。だが、腐っても七影であるブラクはリンダの攻撃を受けながらも立ち上がり、鼻血を噴き出しながらも彼女を血走った目で睨みつけた。
「ぐううっ……こ、殺す!!殺してやる!!」
「ようやく素顔を見せましたね……ですが、もう終わりです」
「図に乗るな、ガキがっ!!」
ブラクは影の触手を全身から解き放ち、正面に立つリンダを捕えようとした。しかし、リンダは迫りくる影の触手に対して手刀を振りかざし、触手を容易く切り裂く。
「無駄です」
「ぐあっ!?こ、このっ……」
「この程度の魔法、私には通じません」
どれだけの影の触手を伸ばそうとリンダは魔光を纏った右手で振り払い、幾度も触手を切り裂く。触手が斬り裂かれる度にブラクは顔色が悪くなり、ただでさえ体調が悪いのにさらに魔力を消耗させていく。
影魔法の利点は本体と影が繋がっているため、影を基に戻せば魔力は本体の元に戻る。しかし、弱点は影を攻撃されればその分だけ魔力を失ってしまい、影の触手が斬り裂かれる度にブラクは着実に魔力を失う。
「はあっ、はあっ……」
「もう諦めなさい。貴方では私に勝てません」
「く、くくくっ……は、ははははっ!!」
疲れ切った表情を浮かべるブラクに対してリンダは構えを取ると、そんな彼女にブラクは狂ったように笑い声を上げる。そんな彼の態度にリンダは不思議に思うと、ブラクは勝利を確信したように声を上げる。
「お前の負けだ、小娘……!!」
「何を言っているのですか?」
「後ろを見ろ」
「……そんな手に引っかかるとでも?」
ブラクはリンダの後方を指差すが、彼女はブラクから目を離さない。古い手を使って自分の油断を誘おうとしていると考えたリンダだが、ブラクの視界には本当に彼女の後方に一人の人物を捉えていた。
「やれ、マカセ!!」
「えっ……!?」
マカセの名前を聞いてリンダは咄嗟に振り返ると、そこには冷や汗を流して立ち尽くすマカセの姿があった。彼は杖を構えており、リンダとマカセの二人に向けていた。
「マカセ先生!?何故、ここに……」
「すまない、リンダ君……」
「さあ、やれ!!死にたくなければな!!」
「くっ!?」
リンダはマカセが現れた事に驚き、その隙を逃さずにブラクは影の触手で彼女を取り囲む。逃げ場を失ったリンダはマカセに視線を向けると、彼は覚悟を決めた表情で魔法を放つ。
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